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特別な存在①

 水曜日。この日は朝から何となく気分が沈みがちだったから、一人で夜を過ごしたくは無かった。  和希は出張で不在だったけれど、LIMEのDMで泊まりに来ないかと誘うと、すぐにOKとの返信が返ってきた。  余計な事を考えてしまいそうな時や、気持ちが落ち着かない時。  そしてちょっと、寂しい時。  俺はこうやって誰かの温もりと、快楽を求めることで精神のバランスを取る。  それを和希もよく知っているから、余程外せない予定が無い限り、俺の我が儘に付き合ってくれる。  何だかんだ言いながらも、和希は優しい。  この感情はもう愛だの恋だのといった甘ったるいモノではないけれど、それでもやっぱり俺にとってこの男は、特別な存在なのかも知れない。  ......とてつもなく、不本意ではあるが。  いつもは意地の悪い和希だが、こういう時彼は、何も聞かないでいてくれる。  とはいえ行為の最中は、いつも通り。  ......ううん、下手したら俺に余計な事を考えさせないために、いつも以上に激しく攻めたてる。  飯を作る気分になれなかったから、待ち合わせたファミレスで一緒に簡単に食事を済ませ、そのまま俺の家に向かった。  そして部屋に着くと、彼の鍛えられた逞しい体に抱き付き、キスを求めた。  すると和希はクスリと笑い、俺の頭を撫でながらそれに応えてくれた。  少しの時間も惜しくて靴を脱ぎ捨てた瞬間、乱暴に玄関先で押し倒された。 「翠......可愛い。  そんなに俺が、欲しかった?」  その言葉にゾクゾクして、体が小さく震えた。   「ハッ......可愛いとか、マジでキモいんだけど。  そういうのいらないから、早くヤろうぜ」    彼の首元に腕を回し、軽く肩に噛み付いてやった。  すると和希はククッと笑い、俺のネクタイに手を掛けた。 「了解。......お望み通り、今日はメチャクチャに抱いてやるよ」

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