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いまさら②
今までキスマークを付けたりしなかった癖に、最近やたらと行為の痕跡を残したがる和希に、戸惑いを隠せない。
「何勝手にまた、痕付けてんの?
......そういうの、迷惑なんだけど」
息を乱しながらもそれに苛立ち、吐き捨てるみたいに言った。
すると和希は俺を抱き締める腕に力を込め、クスリと笑った。
「だって俺のもんだって印、残しとかないと。
他で餌を貰うのは良いけど、ちゃんと帰ってきて貰わないと困る」
まるで俺が和希の、所有物であるかのような発言。
それに驚き、振り返ろうとしたのだけれど、一際深く抉られたせいで思考力はあっさり奪われ、俺はまた淫らに啼き声をあげ続けた。
***
行為が終わると和希はベッドに腰を掛け、煙草に火を付けた。
俺は寝転がったまま、ただぼんやりとそんな彼の後ろ姿を見つめた。
「なぁ、翠。
......俺とちゃんと、恋人として付き合ってみない?」
俺に背を向けたまま、彼は聞いた。
その言葉に戸惑い、震える声で言った。
「は?お前、何言ってんの?
......いまさらそんな事、言われても」
彼の事を好きだった頃の俺ならば、二つ返事で受け入れたであろう申し出。
だけど今は嬉しいだとか、幸せだとかといったプラスの感情は、一切沸いてこない。
あるのは困惑と、怒りだけだった。
だってこんなの、ホントいまさら過ぎる。
......俺の心を散々弄び、裏切った癖に。
「確かに、いまさらって思われるかもだけどさ。
......俺はずっとお前の事、本気で好きだったから」
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