56 / 90

いまさら②

 今までキスマークを付けたりしなかった癖に、最近やたらと行為の痕跡を残したがる和希に、戸惑いを隠せない。 「何勝手にまた、痕付けてんの?  ......そういうの、迷惑なんだけど」  息を乱しながらもそれに苛立ち、吐き捨てるみたいに言った。  すると和希は俺を抱き締める腕に力を込め、クスリと笑った。 「だって俺のもんだって印、残しとかないと。  他で餌を貰うのは良いけど、ちゃんと帰ってきて貰わないと困る」  まるで俺が和希の、所有物であるかのような発言。  それに驚き、振り返ろうとしたのだけれど、一際深く抉られたせいで思考力はあっさり奪われ、俺はまた淫らに啼き声をあげ続けた。 ***  行為が終わると和希はベッドに腰を掛け、煙草に火を付けた。  俺は寝転がったまま、ただぼんやりとそんな彼の後ろ姿を見つめた。 「なぁ、翠。  ......俺とちゃんと、恋人として付き合ってみない?」  俺に背を向けたまま、彼は聞いた。  その言葉に戸惑い、震える声で言った。 「は?お前、何言ってんの?  ......いまさらそんな事、言われても」  彼の事を好きだった頃の俺ならば、二つ返事で受け入れたであろう申し出。   だけど今は嬉しいだとか、幸せだとかといったプラスの感情は、一切沸いてこない。  あるのは困惑と、怒りだけだった。  だってこんなの、ホントいまさら過ぎる。  ......俺の心を散々弄び、裏切った癖に。 「確かに、いまさらって思われるかもだけどさ。  ......俺はずっとお前の事、本気で好きだったから」

ともだちにシェアしよう!