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罪悪感①

「おはよ、翠。  昨日はちゃんと、眠れた?」  目を開けると和希が、にっこりと穏やかに微笑み、聞いた。  初めて関係を持ってから、幾度と無く一緒に夜を過ごしてきた。  だけどこんな風に甘ったるいような、むず痒いような感じで、腕枕なんて真似をされた状態のまま朝を迎えたのは、初めてのことで。  そのせいで、もう二度とコイツに惹かれたりするもんかって思っていたのに、迂闊にもちょっとだけときめいてしまった。  だけどそれがこの男にバレるのは絶対に嫌だったから、いつも以上に冷たい句調で告げた。 「おはよう、和希。  ......まぁ、ぼちぼち。  お前は、寝れた?」  すると和希は俺の体を強く抱き寄せ、耳元で囁いた。 「そっか。俺もまぁ......うん。  それなりに、って感じかな」  たぶん俺同様、目を閉じても中々寝付けず、うとうとと微睡むうちに朝が来てしまったのだろう。  何となく気まずい雰囲気になり掛けたけれど、それには気付かないふりをして彼から体を離し、のそりとベッドから起き上がった。 「和希も朝飯、食ってくよな?  卵はまた、目玉焼きでいい?」  俺が聞いた瞬間、彼の表情がふわりと綻んだ。  それにまた居心地の悪さを感じたから、不機嫌を隠すこと無く聞いた。 「......何だよ?」  すると和希はクスリと笑い、言った。 「俺の好み、ちゃんと分かってくれてんだなと思ってさ。  翠......いつも、ありがとう」  本当に、何なんだよ?......調子が、狂う。  告白の返事なんて、NOに決まっていたのに、強制的に先延ばしにされてしまった。  きっと時間を掛けたさえ、俺がまたコイツの事を好きになるだろうと信じて疑わない傲慢なところはなんていうか......すごく和希らしいと思う。  それが良い事なのか、悪い事なのかは別として。

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