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偶然か、必然か③

「すみません、翠さん。  仕事が忙しいと聞いていたのに、勝手に押し掛けてしまって。  これ、一緒に食べようと思って買ってきたんですけど......」  呟くみたいな声で彼はそこまで言うと、ふぅと小さく息を吐いた。  別に悪い事をしているワケじゃないはずなのに、何となく責められているような気がした。  だから咄嗟に、ごめんと謝罪の言葉を口にした。 「謝らないで、翠さん。  ......どうやら、無駄になっちゃったみたいですね」  そう言って彼は、俺の背後に目をやった。  その瞬間、和希と翔真の視線がしっかりと絡み合った。  和希は大人だし、翔真も初対面の相手に喧嘩を売るようなタイプの人間ではない。  だけどこれ......どうしたもんかな。  なんて言うのが正解か分からず、困り果て、和希の方を振り返った。  しかしこの事態に頭を抱える俺に一瞥もくれること無く、翔真の顔をじっと見つめたまま、和希の唇がゆっくりと彼の名を形取り動いた。 「......翔真?」  それに驚き、再び翔真の方を向いた。  すると翔真はクスリと笑い、ゆったりと立ち上がった。 「和希さん、お久しぶりです。  僕の事、まだちゃんと覚えていてくれたんですね」  尻についた埃を払いながら、嬉しそうに弧を描く翔真の口元。  一方和希の方は蒼白の面持ちで、信じられないモノでも見るように彼に視線を向けたまま、ぎゅっと拳を握り締めている。  状況が全く把握出来ず、呆然とする俺を尻目に、翔真は笑いながら告げた。 「翠さんに名前を聞いた時から、もしかしたらとは思っていたんですけど。  こんな偶然って、あるんですね。   ......まさか僕の元カレが、翠さんのセフレとか」

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