66 / 90
俺が望むコト②
翔真は今でもやっぱり、和希の事が好きなんだろうな。
いつもは飄々としている癖に、こんな風に感情を隠そうともせず、苛立ちだとか怒りだとかを剥き出しにしている和希の心もまた、きっと彼に囚われたまま......。
そこまで考えて、胃がキリキリと痛んだ。
そしてこの時になり、馬鹿な俺はようやく気付いた。
......俺ってば翔真だけじゃなく、和希の事も今もこんなに好きだったんだ。
だけど今さら気付いたところで、たぶんもう遅い。
二人はお互いを、今でも求めあっているんだから。
和希の手を握り、ゆったりと緩慢な動きで立ち上がると、翔真が柔らかな笑顔で告げた。
「分かりました。翠さん、またね」
またね、と言われたけれど、次なんて本当にあるんだろうか?
もし俺が思うように、ふたりがまだ両想いで。
......焼け木杭に火が着いた、なんて事になったら、俺はどうなるんだ?
嫉妬と、怒りと、哀しみと......。
様々な感情が混じり合い、それはまるで汚染されたヘドロみたいに心の中に溜まっていく。
すると翔真は和希から手を離し、俺の側に駆け寄ると、強く抱き寄せた。
「ホント、可愛いなぁ。
大丈夫ですよ、翠さん。
僕も和希さんも、あなたの事が大好きですから」
これまで一度だって、行為の最中以外そんな風に抱き締める事なんか無かったのに。
......このタイミングで、それをやんのかよ。
苛立ち、俺が翔真の体を突き飛ばすより早く。
......和希が彼の着ていたダウンジャケットのフード部分を掴み、二人を無理矢理引き離した。
「間違えてはないけど、俺の気持ちまで勝手に代弁してんじゃねぇよ!
行くぞ、翔真。翠......また、連絡する」
そう言って和希は、翔真の事を引き摺るみたいにしてドアを開けた。
そんな二人の後ろ姿を見送りながら、俺は自分が思う以上に彼らの事が好きで、大切だったんだと知った。
ともだちにシェアしよう!