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俺達が選んだ結末③

 そんなやり取りも普通になった、ちょっと騒がしいけれど楽しい毎日。  食事の後和希はシャワーを浴びに行ったから、俺と翔真の二人だけがリビングに残された。  こういう賑やかな生活も割と良いもんだななんて、のほほんと考えた瞬間。  ......視界の端に、とんでもないモノが写った。 「ちょ......これ、何だよ!」  壁に貼られた、俺が溺愛する男性アイドルグループ『JOKER』の(かなで)のポスター。  しかも直筆サイン入りという、マニア垂涎の激レア品。  昨日までは何の異変もなかったはずなのに、あろうことかこの奏のご尊顔に、金色のペンでチョビヒゲの落書きが描き込まれていたのだ。 「げ......、やば!」  慌てた様子で、部屋から逃げ出そうとする翔真。  その首根っこを掴み、吠えた。 「やっぱり、お前の仕業か!  ったく、こんな落書き、いつの間に......」  でもまたそこで、ある事に気付いた。  ポスターの、下方。『I Love You』の文字が、さらりと書き込まれていたのだ。 「......もしかして、あの時か?」  書き込まれたタイミングに気付き、思わずプッと吹き出した。  これはまだ俺達が、ただのセフレだった頃。  ......俺が文房具店で買ったあの、氷点下以外では文字が非可視化されるペンでコイツはこれを書いたんだ。 「こんなの書いたのがバレたら、キャラぶれぶれなのが俺に、気付かれてたんじゃね?」  なんてネタバレまでに、時間の掛かる悪戯だよ。  もう怒るのも馬鹿らしくなり、笑いながら言った。  すると翔真はちょっとバツが悪そうに下を向き、唇を尖らせて答えた。 「願掛けみたいな、もんやったから。  ......これがちゃんと文字として現れる頃には、翠さんがホンマの僕の事を、好きになってくれますようにって」

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