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【SS】Immoral Love~side和希~⑤

 それでも心が動かされなければ、まだ全部無かったことに出来たと思う。  なのにコイツを前にした瞬間、強引にあの頃の感情を揺り起こされてしまったような気がした。  ......だってお互い、嫌いになって別れたワケじゃない。 「俺は翠の事だけ、これからは愛するから。  だからアイツを傷付けるような真似、二度としないし、お前にもさせない」  もうコイツに、心を揺さぶられたく無かった。  今後会わなかったさえ、きっと忘れる事が出来る。  ......翠と、一緒なら。  でも彼は呆れたようにクスクスとまた笑い、思わぬ言葉を告げた。 「和希さんは、ホンマに何も分かってへんな。  翠さんはクールに見えてたぶん、僕と同じぐらい欲深いで?」  その言葉の意味がやはり分からず、またしても戸惑う俺。  こんな男の妄言にこれ以上付き合うべきじゃないと思うのに、彼は俺の意思を無視したまま猫みたいに体を擦り寄せ、じっと顔を見上げた。   「......どういう意味?」  俺の問いに彼は、満足そうにニヤリと笑った。 「翠さんは僕の事が好きやけど、和希さんの事も同じくらい好きなんやと思う。  だからどっちか選べって言うんは、ちょっと(コク)なんとちゃうかな?」  その言葉に、またしても決意が揺れた。  だけど......。 「俺がお前の事を、忘れさせる」  キッと睨み付けて言ったのに、彼はまた可笑しそうに笑った。 「翠さんは僕らと違って、弱くて繊細やねん。  和希さんと一緒におるのに僕の事を忘れるなんて真似、ホンマに出来ると思う?......絶対、無理やろ」

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