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【SS】Immoral Love~side和希~⑥
確かにこの男の、言う通りかもしれない。
怯んだ隙に彼は、俺に抱き付く腕に力を込めた。
「それに......和希さんも僕の事、まだ好きやろ?」
さっきまでの強気な態度とは異なる、弱々しく震える声。
別れた時でさえへらへらと笑い、涙のひとつも見せなかった癖に。
傷付いたのは、自分だけだとずっと思い込んでいた。
......だけどもし、そうじゃなかったのだとしたら?
俺はあの日、真実をちゃんと言わなかったせいだと、翔真一人に責任を押し付けて。
......まだ子供だったコイツの事を、保身のために捨てた。
「......もう全部、終わった事だから」
だけど絆されるワケにはいかないと考え、なるべく平静を装い告げた。
すると翔真はガバッと顔を上げ、涙に濡れた瞳を俺に向け、再び聞いた。
「そんなん、答えになってへん!
......僕の事が好きかって、聞いてるんや」
本当にコイツとの過去を全部無かった事にして、俺だけ翠との幸せな未来を望んで良いのだろうかと、また迷いが生じた。
すると彼は涙を拭い、再び挑むような不敵な笑みを浮かべた。
「否定も肯定も、せんのやな。
なぁ、和希さん。
......僕ね、翠さんの事もホンマにめっちゃ好きなんよ。
和希さんを好きなんと、おんなじくらい」
「......復讐のために、翠を俺から奪うつもり?」
俺からしてみたらそれは、最悪過ぎるエンディングと言えよう。
でもコイツを止める権利なんて、俺にあるのか?
......そんなの、無いだろ。
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