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嘘吐き夜を目指す XIII
天海の考えていることなんて、織部にはとても理解できなかったし、天海がそれを織部にも分かる言葉にして伝えてくれないことだって知っているつもりだった、これでも一応。
(あー・・・でも体よく突っ込んでくれる棒としか思ってなさそう)
考えれば考えるだけ虚しくなるので、織部は最近それを考えることを放棄している。持ち上げた天海の右足に軽くキスをして、もう意地悪するのはやめて、天海の欲しいものを上げようと思った。とりあえず当面はその役割でも何でもよかった。それ以上の何かを手に入れるのは、もっと多分時間がかかる。その方法に宛てはなかったけれど、織部はひとりでそんな風に考えていた。
「じゃあとりあえず、一回ローター抜くから」
「・・・い、いい」
「え?入れてちゃはいんな・・・―――」
「その、まま・・・入れて」
そうやって天海は簡単に、織部のすべてを揺さぶることができるのに。
「その、まま、いれて、おまえの」
「・・・え?」
ローターを引っ張りかけていた手を止める。確かにローターは小さいし、無理矢理突っ込めば入らないことはないと思いながら、織部はそれを確かめるつもりで天海の顔を見やった。そこで天海は緩く与えられ続ける刺激を、奥歯を噛んで耐えていたけれど、どこかやっぱり物足りないようで決定的なところが足らなくて、少し苛々しているみたいにも見えた。
「・・・いれちゃって大丈夫なの?取れなくなったりするんじゃ」
「い、いい、ひ、っぱればとれる」
ローターを抜こうとしていた織部の手を止めるみたいに掴んでいた天海の手が形を変えて、続きを促すみたいに手の甲に爪を立てられる。天海がそういうのならきっとそうなのだろう、そんなことはよく分かっていた。本当は分かりたくなんてなかったけれど。
(そういうこと誰かとしたことあんの?なんて、聞くだけ野暮だよなぁ・・・)
でも天海とセックスをすればするほど、そういう事実にぶち当たっては、織部が現実を嚙み締めてひとりで虚しくなっていることを、快楽を追いかけることに忙しい天海はきっと気づいていない。じっと薄暗がりの天海の顔を見ると、天海はどうして織部が何も言わないので自分の思うように動いてくれないのか分からないみたいで、じれったいみたいに腰をゆらっと動かした。
「・・・おり、べ」
「分かったよ、このまま挿れるから」
半分くらい投げやりになりながら、織部は先刻天海が服の上から舐め始めたので、少し湿っているスラックスのジッパーを外して、下着を下げた。そして解れてぐずぐずになっている天海の後ろ孔にそれを宛がって、一気に奥まで突っ込んだ。
「ああっ・・・―――」
「う、ぁ」
ローターの微弱な振動が、先端に響いて痛いほどだった。目の前で星が散る。
「・・・あ、あまみ、さん、これ・・・」
「お、く、あたって・・・っ」
息も絶え絶えにそう言う半開きになった天海の口から、たらりと透明の唾液が流れていく。当たっているのは分かっている、こっちも当たっているわけだから、考えながら織部はそれを口に出して天海に抗議することが難しいことを知っている。気を抜いたらそのまま持っていかれそうと思いながら、努めて冷静になろうとしたけれど、当然だがこんな状況だから無理だった。それなのに天海はそれでは足りないようで、またゆらっと腰を動かして、織部をもっと奥まで誘おうとする。
「ちょ、ま、って」
「ん、も、っと・・・ぁ」
「ま・・・出る、から・・・!」
動く天海の腰を掴んで、それで動きを抑えたはずだけれど、結果的に一番奥まで挿し込む形になって、織部はそのまま天海の中で果ててしまった。ぜいぜいと上がった息が耳元でしている。ちらりと天海の顔を見やると、そこでまだ潤んだ眼をして織部のことをじっと見ていた。
「・・・あ、まみさん」
天海は寝転んだ格好のままちょいちょいと指を動かして、織部のことを呼んだ。キスかなと湯だった頭で考える。挿し込んだまま織部が天海に顔を近づけると、天海は織部のネクタイのノットに指を突っ込み、それをするすると解いてしまった。
「・・・な、に?」
「まだ、かたい・・・」
「・・・あ、あまみさんのせいだろ・・・」
蕩けた目のまま天海が言うので、急に恥ずかしくなったような気がして、織部はまだ天海の中にあるそれをもう抜いてしまおうと思った。思ったよりすぐに織部が果ててしまったせいで、天海はまだ物足りないようだったが、とりあえず織部は少し考える時間が欲しいと思った。何を考える必要があるのか、自分でもよく分からなかったけれど。しかし織部がゆるりと動こうとした時に、天海は抜き取った織部のネクタイを放るように投げてきた。それが織部の胸のあたりに当たって、はらりと落ちる。
「それ、で、根元縛れ」
「・・・ん?」
「次は、俺が満足するまで、イくな」
「・・・―――」
織部は落ちたネクタイを取って、それから天海の顔を見やった。天海はこっちを見ておらずに、まだその顔には熱っぽさが残っている。
「・・・鬼畜だな、天海さん」
「はやく」
他のことはどうでもいい天海は、もう続きを促してくる。本当にどうしようもないと頭では分かっているのに、織部はそれに逆らえない。本当はどっちがどっちの意思を尊重するつもりで、もしくは踏み躙るつもりでいるのか、よく分からない。湯だった頭で考えても無駄だった。織部は自分のネクタイを握ったまま、体を折ってこちらを向かない天海の小さい顎を掴んで、自分のほうを向かせると唇に触れるだけのキスをした。ゆっくり唇を離しても、天海の表情は変わらない。
「でもそこが好きだよ」
夜はそこまで迫っている。
Fin.
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