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第3話
「どうぞ。適当に座ってて。」
「うん。お邪魔します。」
グラスにコーヒーを注ぎテーブルに戻ると、彼は棚の上の写真立てを眺めていた。
せめて写真の中だけでも二人で笑い合えていたらと思い、高校の入学式の日に撮った写真を飾っていたのだ。
「懐かしいな、これ。」
「うん..」
「..もう逢えないと思ってた。」
「..僕も。」
写真を指でなぞりながらぽつりと呟き、彼は僕の方に体ごと向き直した。
潤んだ瞳に薄っすらと涙を溜めているようだ。
改めて見た彼の顔は想像以上に大人びていて、離れて過ごした時の長さを実感した。
「ずっと..理久に逢いたかった..」
「僕だって..逢いたかったよ..」
「じゃあ、どうして姿を消したりしたんだよ..?」
「っそれは..」
唇をきつく噛み締める僕を見て、彼は俯いてしまった。
今までのことを話したら、どんな顔をするのだろうか。
もし気持ち悪がられてしまったら、本当に二度と逢えなくなってしまう。
でも、もう独りで抱え込んでいるのは苦しくて寂しい。
あの日々の出来事も、言えずにいた恋心も、晴斗には聞いて欲しい。
すぅっとひとつ深呼吸をして、俯いたままの彼に声を掛けた。
「..全部、話すね。とりあえず座ろう?」
「ん、分かった。」
テーブルに向かい合って座り、氷で薄くなったコーヒーを一口啜った。
張り詰めた空気が緊張感を煽り、心臓がドクドクと激しく脈打つ。
不安を押し殺すように胸に手を当て、重い口を開いた。
「高3の終わり頃、イジメに遭っていたんだ。」
「..は..」
「派手なグループの人達いたでしょう?..あの人たちに..突然ホモって呼ばれる、ようになって..気付いたら..ッ性奴隷扱い、されるように..なっていて..っだから、未だに他人と..ッ接触する..のが、怖いんだ..」
「..り、く..?」
弄られた手の感触や熱、自分から発せられた甘ったるい声がフラッシュバックしてガチガチと奥歯が鳴る。
それでも最後まで話そうと必死に言葉を紡ぐけれど、喉が引き攣って上手く喋れない。
「ひ、ぅ..っ僕、ね..晴斗が..好き、だった..んだ..ッは..」
「理久!」
「だか、ら..ホモって..呼ばれ、ても..仕方、なくて..ッ」
「やめ..っやめろ!もう良いから..!」
頭を抱えて震える僕に怒鳴るような声を上げた彼の顔を見上げると、血が滲み出しそうな程に唇を噛み締めていた。
その苦痛に歪めた表情にハッと我に返り、慌てて身体を起こし後退る。
「あ..ごめ、ん..」
「..いや。俺こそ、思い出させてごめん。」
「謝らないで..」
「..俺も聞いて欲しい話があるんだ。」
コクリと小さくひとつ頷いて、俯いたままだった顔を少し上げた。
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