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第12話

12.  あの写真に一緒に写っていた人は一体誰だったんだろう? 俺はあの日からずっと、考え続けていた。夕暮れ時のコンビニ。カウンターに寄りかかって、ぼうっと外を眺める。通学帰りの学生達が時折店の前を通り過ぎるが、中にまでは入ってこない。ヒマな時間帯だった。  森本さんは、あれ以来コンビニに買い物に来なくなった。当たり前だろう。あんな真似されて、これまでと同じように買い物になんて来られるわけがない。自分がそう仕向けたようなものだった。  仲が良さそうに笑顔で二人並んで写っていた写真。きっとあの晩、森本さんが待っていたのは、写真に一緒に写っていた人なのに違いない。 ――でも、あの指輪は?  そうか、と俺は思い付く。指輪をしているからって、相手が女性とは限らない。多分、あの指輪の相手は写真の中の人だったんだろう。  あの晩、あの写真の男性は森本さんに会いに来る予定だったのに違いない。だから、公園には来られなかった。そして森本さんは相手が男性だと知られたくなかったから、写真を無理に見た俺に対してあんなに怒ったのだ。 ――怒るの当たり前だよな。あんな真似して……  森本さんの怒った声と、悲しそうな表情が忘れられない。 ――もう一度、きちんと謝りたい。  あの時、俺は見知らぬ誰かに嫉妬していた。森本さんがいつもと同じように、俺と公園で会わずに、その見知らぬ誰かを優先させたのが気に入らなかったんだ。それで、思わずあんな真似をしてしまった。彼は見られたくないから、俺が部屋に入る前に写真立てを伏せて置いたのに。  いつの間にか、日も暮れて真っ暗になっていた。会社帰りのOLやサラリーマンが時折店に入ってくる。 ――今日も、森本さん来ないかな。  当然だけど、あれから俺は公園には行っていない。森本さんは、コンビニに買い物に来ていないから、公園にも行っていないだろうと思っていた。それに公園に行ったとしても、どんな顔をして会ったら良いのか分からなかった。ようやく、この二、三日気持ちが落ち着いてきて、ちゃんと謝りたいと思うようになったのだ。  店内に来客を知らせる音が鳴り響く。俺はそちらに視線を向けた。 ――も、森本さん!?  森本さんはこちらを見ることもなく、カゴを手に取ると雑誌コーナーを通り過ぎて、まっすぐ冷蔵庫に歩いて行った。そしてガラス扉を開け、缶チューハイを適当に選んでカゴの中に何本も入れる。 ――あれ? どうしたんだろ?  森本さんはその後、いつもの弁当コーナーへは行かずに、すぐにレジにやって来た。 「……あの、お久しぶりです」  俺は森本さんの顔をまともに見られなくて、俯いたまま言った。彼は、何も答えない。俺は恐る恐る視線を上げる。  森本さんの顔は真っ赤で、とても恥ずかしそうな表情を浮かべていた。 「も、森本……さん?」 「な……なんで、佐々間くん、来なくなったの?」 「え?」 「公園」 「いや……あの……森本さん、嫌かなって」 「待ってたのに」 「ええっ!?」  俺は驚いて思わず大声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。店長に聞かれてなかっただろうか? と不安になったが、バックヤードにでも行っているらしく、店内には姿を見かけなかった。 「森本さん、毎晩公園で俺を待ってたんですか?」 「……そうだよ」 「俺、てっきり嫌われたと思ってたから……」 「どうして?」 「だって、あんなことして森本さんを怒らせちゃったし」 「でも、ちゃんと謝ってくれたじゃないか」 「あんなの謝ったうちに入りませんよ。……本当にごめんなさい。プライベートに立ち入るような真似しちゃって」 「もういいよ」 「それに、あれから全然、コンビニに買い物も来なかったから」 「違う店に行ってるんだ」 「それって、やっぱり俺に会いたくなかったからじゃないんですか?」 「そうじゃなくて……ごめん、あのお弁当飽きちゃって」  森本さんは苦笑した。 「最近、駅前に新しく出来たコンビニのお弁当に凝ってて……それで、そっちで買い物してたんだ」 「そ……そうだったんですか……」  俺は一気に体の力が抜けて、へなへなとその場に座り込みたくなっていた。まさか、そんな理由で買い物に来てくれてなかったなんて……  でも、少なくとも森本さんは、俺を嫌いになったわけじゃないらしい。こうやって公園に誘ってくれたし。 「今日はもうすぐシフト終わる?」 「……はい。終わったら、公園に行きますね」 「ブランコで待ってる」  俯き加減の森本さんは、はにかんだ笑顔を浮かべていた。

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