6 / 9
第6話
6.
俺には分かっていたのかもしれない。橋本の答えが。だけど、俺は分からないフリをした。もしも橋本が言いたくないのなら、無理に言わせたくないと思った。……いや、それは単なる言い訳だ。もしも、自分が予想した答えが違っていたら恥ずかしいから、分からないフリをしたんだ。
「……ごめんな」
俺は橋本にそう言った。橋本は驚いた顔をして、俺をじっと見つめている。どうして突然謝ったのか、理由が分からなかったみたいだ。
「俺さ、さっき庭でおまえに会うまで、同期だって忘れてたんだ」
「なんだ、そんなことか」
橋本は何だかホッとしたように言うと、少し笑って見せた。
「そんなの構わないよ。同期なんて、所詮同じ年に入社した社員ってだけで、別に普段から仲良くしてるわけじゃないし」
「……」
「それに僕なんて、本当に目立たないから、忘れられてて当然だしね」
「そんなことないよ。俺がただ単に周りの奴らに興味がなかったってだけで……だけど、おまえは俺をちゃんと覚えててくれただろ?」
「それはそうだよ、だって……」
橋本は勢いよくそう言ってから、はたと何かに気付いたように口を噤んだ。
「だって……なに?」
「ううん、なんでもない」
「おまえさ」
「なに?」
「結構、秘密主義だよな」
「そうかな」
「そうだよ。……俺にも言えない?」
「言えないっていうより、聞かない方がいいと思う」
橋本は伏し目がちに言った。アルコールを飲んだせいなのか、瞳が潤んでいて何とも言えない色気がある。
「……俺は聞きたい」
「……どうしても?」
「どうしても」
橋本は手にしていた缶ビールを小卓の上に載せる。そのまま何かをじっと考え込んでいた。
「橋本」
「なに?」
「言ってもいいよ」
俺はあいつの顔をじっと見つめた。多分、俺の想像通りなら、きっとあいつは答えるだろうと思っていた。
橋本の表情が崩れる。あいつは泣きそうな顔をしていた。
「おまえが思ってるより、俺は口が固い方だと思うけど」
「でも……」
「おまえが何言っても、俺はおまえを嫌いにならないって言ったら?」
俺のだめ押しの一言で、ハッとしたように、橋本は顔を上げた。
「大丈夫、絶対嫌いになんかならない。約束する」
「……後藤くん」
橋本は突然立ち上がった。
ともだちにシェアしよう!