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第6話

6.  俺には分かっていたのかもしれない。橋本の答えが。だけど、俺は分からないフリをした。もしも橋本が言いたくないのなら、無理に言わせたくないと思った。……いや、それは単なる言い訳だ。もしも、自分が予想した答えが違っていたら恥ずかしいから、分からないフリをしたんだ。 「……ごめんな」  俺は橋本にそう言った。橋本は驚いた顔をして、俺をじっと見つめている。どうして突然謝ったのか、理由が分からなかったみたいだ。 「俺さ、さっき庭でおまえに会うまで、同期だって忘れてたんだ」 「なんだ、そんなことか」  橋本は何だかホッとしたように言うと、少し笑って見せた。 「そんなの構わないよ。同期なんて、所詮同じ年に入社した社員ってだけで、別に普段から仲良くしてるわけじゃないし」 「……」 「それに僕なんて、本当に目立たないから、忘れられてて当然だしね」 「そんなことないよ。俺がただ単に周りの奴らに興味がなかったってだけで……だけど、おまえは俺をちゃんと覚えててくれただろ?」 「それはそうだよ、だって……」  橋本は勢いよくそう言ってから、はたと何かに気付いたように口を噤んだ。 「だって……なに?」 「ううん、なんでもない」 「おまえさ」 「なに?」 「結構、秘密主義だよな」 「そうかな」 「そうだよ。……俺にも言えない?」 「言えないっていうより、聞かない方がいいと思う」  橋本は伏し目がちに言った。アルコールを飲んだせいなのか、瞳が潤んでいて何とも言えない色気がある。 「……俺は聞きたい」 「……どうしても?」 「どうしても」  橋本は手にしていた缶ビールを小卓の上に載せる。そのまま何かをじっと考え込んでいた。 「橋本」 「なに?」 「言ってもいいよ」  俺はあいつの顔をじっと見つめた。多分、俺の想像通りなら、きっとあいつは答えるだろうと思っていた。  橋本の表情が崩れる。あいつは泣きそうな顔をしていた。 「おまえが思ってるより、俺は口が固い方だと思うけど」 「でも……」 「おまえが何言っても、俺はおまえを嫌いにならないって言ったら?」  俺のだめ押しの一言で、ハッとしたように、橋本は顔を上げた。 「大丈夫、絶対嫌いになんかならない。約束する」 「……後藤くん」  橋本は突然立ち上がった。

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