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第2話
2.
まるで針の筵に座らされたみたいな、居心地の悪い披露宴がやっと終わった。俺はもう精も根も尽き果てて、ふらふらだった。
「おい、菊池、二次会行こうぜ!」
大学時代の仲が良かったグループのうちの一人が、声を掛けてきた。
「おまえのスピーチ、めちゃくちゃ上手かったぜ」
「盛り上げ方がプロっぽかったよな」
口々にそう言って俺の周りを取り囲む友人達を見ていたら、もう本当に全部どうでもよくなってきて、西内と俺、実は付き合ってたんだぜ、なんて暴露してやろうかという気にもなってきた。
――やらないけどな。……俺、そこまで性格悪くないし。
そのまま流されるように二次会へ行ったが、披露宴の時から浴びるように飲んでいた酒がボディブローのように効いてきて、ものの1時間も経たないうちに意識が怪しくなってきた。
「……ごめん、俺もうダメだ。気持ち悪くて吐きそうだから、帰るわ」
隣に座ってたヤツに声を掛け、盛り上がっている二次会をこっそり抜け出した。
一歩店から外へ出ると、ひんやりとした空気が気持ち良い。大通りまで出て、タクシーを拾い、虚しい気持ちを抱えてアパートまで帰った。
アパートの部屋に戻るなり、俺はスーツも脱がずに、そのままベッドの上に倒れ込む。自分がものすごく酒臭いのが分かる。
――あーくさい……このにおい嗅いだだけで吐きそ。
俺は目を閉じた。
真っ白なスーツを着て花嫁さんと並んでいたあいつは、すごく男前で格好良かった。でも、あいつはもう俺のものじゃない。
そう思ったら、今まで必死に蓋をして堪えていた感情が爆発してしまい、涙が溢れてきた。
――馬鹿だよな、俺……ホントに馬鹿。
最初、結婚式の招待状が届いた時は、行くつもりなんて全くなかった。欠席に丸印をして返送しようと思っていた。だが、あいつから電話が掛かってきて、出席してくれよ、って言われたら、行かないとは言えなくなってしまったのだ。
――俺、マゾなんじゃね……?
わざわざ振られた相手を喜ばせるために、のこのこ出掛けていくとか、考えられないぐらいの間抜けだ。だけど、俺はあいつをがっかりさせたくなかった。
惚れた弱み、ってやつだったのかもしれない。
それとも結婚したあいつを見たら、けじめがついて、きっぱり忘れられると思ったのかも。
確かに、あいつが花嫁さんと並んでいる姿を見たら、もうあいつが俺のところに戻ってくる可能性はないんだな、って自覚出来たから良かったのかもしれない。
――もう無駄な期待しなくて済むんだよな。
いつか、もしかしたら、やっぱり俺がいい、って言って帰って来てくれるんじゃないか、なんて甘い期待を持ち続けていた。
そんなもしもは、結局なかったんだけど。
俺はそんなことをぐるぐると考えながら、いつの間にか眠っていた。
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