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第3話
3.
――酒くさい……
あまりの臭さに目が覚めた。瞼を開くと、窓の外は嫌になるぐらいの青空。ちゅんちゅん、なんて鳥の声までして、自分の酒臭さとは正反対の爽やか過ぎる朝に、まだ夢の世界にいるんじゃないか、なんて気がしてきた。
「あ……スーツのまんまだった」
昨夜帰宅して、ベッドの上に倒れ込んだまま寝てしまったらしく、スーツは着たままで皺くちゃになっていた。
部屋の中は酒臭いし、天井の照明は点けっぱなし、カーテンも閉めずに寝ていたらしい。
照明のスイッチをオフにして、窓を開けて空気の入れ換えをする。スーツはクリーニングに出さないとだな……と思い、脱いでハンガーに掛けた。そして足元に転がっていた紙袋に気付く。昨日の披露宴で招待客全員に渡された物だ。
――何が入ってるんだ?
座り込んで、中味を出してみる。
よくある引き出物のギフト用カタログと、お菓子の箱が入っていた。薄いブルーの箱にゴールドのリボンが掛けられている。
「……何のお菓子だろ?」
箱をよく見ると、都内の有名な洋菓子店の名前が入っている。底を見たら内容物のシールに『バウムクーヘン』と書いてあった。
――そういや、こんなのバウムクーヘンエンドって言うんじゃなかったっけ……
いつだったか、西内が『おまえ、これ知ってるか?』と言って教えてくれた言葉だった。仲が良くて周囲からも付き合ってると思われてて、そしてゴールインまで辿り着くだろうと思っていた二人だったのに、どちらか片方がまったく別の人間とくっついてしまうラスト。
――あいつ、わざとこれ選んだんじゃねえか? まさかとは思うけど、俺にだけこれ入れてたりして……
俺はバウムクーヘン入りの箱をゴミ箱に捨てようとして、動きを止めた。
視線の先には段ボール箱。
――そうだ……
段ボール箱の中味はじゃが芋だった。
――これ、お返しにあげたらいいんじゃないか?
じゃが芋はアパートのお隣さんからの頂き物だった。半年ほど前に引っ越して来たお隣さんは、実家が農家だとかで、しょっちゅう野菜のお裾分けをくれるのだった。先週はじゃが芋、その前はとうもろこし、メロンやお米も貰ったことがある。考えてみたら、忙しさにかまけて、いつも貰うばかりでお返しをしたことが一度もなかった。
――丁度いいや、これをお隣さんにあげよう。
俺は途端に良い気分になってきて、箱をテーブルの上に載せると、シャワーを浴びようと立ち上がった。
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