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第6話
6.
バウムクーヘンをお隣の緒崎さんの家に持って行った日から、俺たちはしょっちゅう夕食を共にするようになった。最初の数回は、緒崎さんが俺の家まで誘いに来てくれたのだが、その後は、夕食の後「今度は明後日の夜どうですか?」なんて具合に次の約束を交わすようになった。
毎回緒崎さんに夕食を作って貰うのも申し訳なくて、俺も「今度は、こちらで夕食を作りますよ」と言ったのだが、緒崎さんは実家から送られてくる野菜の消費のために呼んでるのだから、と俺の申し出を受けてくれなかった。その代わり、緒崎さんから頼まれた追加の食材や、アルコールを買って持って行くということで妥協した。
そしてこの夜もお隣の緒崎さんの部屋にお邪魔中だ。
「今日は和食にしてみたんですよ。口に合うといいんですけど」
緒崎さんは、テーブルの上に煮物の入った鉢を幾つかと、味噌汁の入ったお椀、そして白いご飯が入ったお茶碗を置いてくれた。
「うわ、美味そうですね」
「こういうの、あんまり作った事がなくて、美味しいか分からないんですけど……」
俺は「頂きます」と言うと、早速手前に置いてあった肉じゃがを小鉢に入れて食べてみる。
「美味いですよ、緒崎さん料理上手いなあ……」
「そうですか? それは良かった」
ホッとした顔をして、緒崎さんも食事を始める。じゃが芋を一口食べると、こちらを見てから照れたように口を開く。
「自分で作っておいて何ですけど、結構美味いですね」
「いや、本当に美味いですよ。……緒崎さんと結婚する人は幸せだろうな」
俺は白いご飯を食べながら、緒崎さんが可愛いお嫁さんと二人で食卓を囲んでいる様子を思い浮かべていた。あの日、西内の結婚式で、あいつが花嫁さんと二人で幸せな顔をして並んでいたような、そんな光景が脳裏に浮かんだのだ。
「……そうでしょうか」
「そうですよ。こんな美味しいご飯作って貰えて」
「そんな風に言ってくれるの、菊池さんだけですよ」
心なしか緒崎さんの表情が曇ったようだった。
「そんなことありませんよ。……あの、」
「なんですか?」
「ご飯、お代わりしてもいいですか? 肉じゃがすごい美味くて……」
「あはは、もちろんですよ。米も実家から送ってくるんで、遠慮なくお代わりして下さい」
俺はすっかりご馳走になって、良い気分になり、持ってきた缶ビールを開けていた。
「いつもご飯ご馳走になっちゃってるんで、せめてビールぐらいはいっぱい飲んで下さいね」
俺はコンビニのビニール袋から、缶ビールを取り出すと、片付けの終わったテーブルの上に並べる。
「……いいんですか? こんなに。飲みきれないかもしれませんよ?」
「飲みきれなかったら、冷蔵庫に入れておいて下さいよ。次に来た時に飲めばいいし」
「分かりました。じゃあ、遠慮なく」
緒崎さんもプルタブを開けて、ビールを飲み出す。
「……前から聞こうと思ってたんですけど、菊池さんっておいくつなんですか?」
「俺ですか? 26才ですよ」
「なんだ、じゃあ俺たち同い年なんですね」
「え? そうなんですか? 緒崎さん、落ち着いてるからてっきり年上なんだとばかり……」
「実年齢より老けて見られがちなんですよ」
緒崎さんはそう言って、あははと笑った。
「老けてるっていうか、俺にもその落ち着きが欲しいところですよ。……って言うか、同い年なら、もっとくだけた話し方でいいってことか」
「そういうことだね。……実を言うと、菊池さんの方が年上なのかなって思ってたんだ」
「菊池さん、なんて改まった呼び方しなくていいよ。菊池でも晴久 でも、どっちでも好きな方で呼んで」
「じゃあ、俺も緒崎でも、雄一郎 でも好きな方で」
「へえ、下の名前雄一郎って言うんだ。格好いいな」
「そうかな?」
「そうだよ」
俺たちは顔を見合わせた。まさか同い年だとは思ってなかったから驚いたけど、なんだか二人の距離が、これまでよりもずっと縮まったような気がしていた。
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