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第7話

7.  同い年だと分かってからは、より一層俺がお隣さんに遊びに行く機会が増えた。これまでずっと緒崎が、年上だとばかり思ってたので、親しくなってもどこか遠慮した空気があったのだが、それが一気になくなり、ただの仲良しな友達の家に遊びに行く感覚になった。  この日は約束していなかったのだが、会社帰りに寄ったコンビニで新製品の缶ビールを見つけ、試してみようかと何本か買ったので、家に戻るよりも先に、隣の部屋のドアをノックしていた。 「あ、菊池。どうしたの?」  ドアを開けて俺が立ってるのを見た緒崎は笑顔で尋ねてきた。 「新製品の缶ビール、試してみない? さっき、寄ったコンビニで見つけたんだ」 「いいね。……今日は夕食作ってないんだけど、いい?」 「いい、いい。何か酒のつまみがあれば、助かるんだけど」 「何かあると思う。確か、実家から送って来た缶詰があったような……」  早速緒崎はキッチンの棚を開けて探し出す。俺はその様子を見ながら、部屋にあがった。 「緒崎って、いつも定時上がり?」 「うん。今はあんまり忙しくなくって……あ、でも繁忙期になると残業もあるよ。菊池はいつも大体この時間の帰宅だよね?」 「俺も今はちょっと暇な時期なんだ。でも来月あたりから、忙しくなりそうなりそうなんで、ちょっと憂鬱なんだよね」  緒崎は、サンマの蒲焼きの缶詰と、チーズとクラッカーを持ってきてテーブルの上に載せた。 「なんだか、変な取り合わせだな。まあ、何もないよりましだろ?」 「ああ、充分だよ。俺も少し買ってきてるから、それで足りるんじゃないかな」  俺はビニール袋から、何種類かの総菜のパックを取り出す。 「そう言えば、菊池がスーツ姿なの見るの初めてだな」  緒崎は缶詰の蓋を開けながら言った。 「……そっか。いつも自分の家に一度戻って着替えてから来るから……」 「なんだか、新鮮。俺のところ、みんなカジュアルな服装で、スーツ着てるヤツいないから」 「そうなのか。……俺のところはスーツが制服みたいなもんだから、気にしたことなかったな」 「スーツ似合ってるな。格好いい」 「そ……そう、かな?」  格好いい、なんて言われて、俺は突然目の前に座っている緒崎の顔をまともに見られなくなってしまった。きっと何となしに、いや、お世辞で言ったのに違いないんだけど、でも、めちゃくちゃ恥ずかしくて照れてしまったのだ。多分、俺の顔は赤くなっていたんじゃないかと思う。緒崎はそんな俺に気付いた様子もなく、缶ビールを飲みながら、何か話していた。 「……菊池、聞いてるか?」 「あ、ごめん、ごめん。なに?」 「明日の夕飯、うちに来るか、って聞いたんだけど」 「もちろん来るよ! 何作ってくれるんだ?」 「何か食べたいものある? そろそろネタ切れなんだよね」 「そうだな……久しぶりに、がっつり肉を食いたい気分かな……」 「そう言えば、うちに来ると野菜メインの食事ばっかりだもんな」 「それもヘルシーで良いんだけどさ」  あはは、と二人で笑った後、しん、と妙な静けさが部屋に流れる。俺は緒崎を見ていた。緒崎は俺を見ている。 「あの……」 「じゃあ……」  二人で同時に口を開いて、それから気まずそうに黙り込む。少しの間の後、緒崎が話し始めた。 「そしたら、明日は焼き肉しようか。実家から送って来たピーマンとか使えるし」 「いいね。肉は俺が会社帰りに仕入れてくるよ」 「オッケー、美味い肉頼むよ」 「安月給なんだから、あんまり期待するなよ?」  俺は冗談めかしてそう言ったが、内心、自分で買える範囲で一番高い肉を買ってこようと決めていた。

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