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第12話
12.
テーブルの上に並べられた食べ物を摘まみつつ、ビールを呷る。西内は上機嫌で話し続けていた。
「……それでさ、そん時食ったリブが安くてめちゃくちゃ美味くって感激したんだよな」
話の内容は主にハワイでの新婚旅行の様子だった。一応気を遣ってくれてるのか、奥さんの話はしていなかった。まあ、もしも奥さんとの惚気話を聞かされていたら、5分も経たずに席を立っていたと思うけど。
「おまえにも食わせたかったな。肉、好きだもんな」
あいつは、さり気なく会話に俺を混ぜ込んでくる。そういう気遣い、本当いらないから。俺は話半分に聞き流しながら、食べる方に意識を集中させた。そうしないと、余計な感情に心がかき乱されて、どうにかなってしまいそうだった。
「……なあ、菊池。おまえ今日時間あるだろ?」
急に声を潜めて、西内は俺の顔を覗き込んできた。
「なに?」
「この後、ホテル行かねえ?」
――は……はああああ?!
俺は驚き過ぎて、西内の顔を見つめたまま、口をぱくぱくさせてしまった。
「嫁さんさ、今日実家に帰ってていないんだ」
「おっ、おまえ……なに言ってるのか分かってんの?」
「どうして、そんなに驚いてるんだよ」
「だ、だって、おまえ、結婚して奥さんいて……それ、浮気だろ?」
「浮気? 浮気になんのかな? だって、おまえ男だろ? 男相手ならセーフじゃねえ?」
――し、信じられねえ! こいつ、こんなに下半身緩かったか? って言うか、それ以前に俺を今晩誘ったのって、それが目的だったってことかよ……?
「久しぶりにおまえとやりたいんだよ。……なあ、いいだろ? それとも、おまえもう誰か付き合ってるヤツとかいるわけ?」
「付き合ってる人はいないよ……」
「じゃあ、いいじゃねえか。おまえだって、久しぶりなんじゃねえの?」
西内の手が俺の太腿に置かれた。触れられた場所が熱を持つ。
――この感覚……やばい。
あいつの手が焦らすように、少しずつ上に動いてくる。振り払ってしまえば良かったのに、俺は振り払えなかった。ただされるがまま、あいつの手が敏感な部分に触れるのを感じていた。
「なあ、菊池。行こうよ」
何度となく、こうやって西内に誘われて、飲んだ後ホテルに流されるように行ったのを思い出す。いつだってそうだ。西内は俺の気持ちなんて全部無視で、自分がしたい事を優先してきた。そんな西内にまんまと乗せられるようにして、あいつの言いなりになってた俺も大概だ。だけど、俺はそれでも幸せだったんだ。
あいつの笑顔が見られたら。
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