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第13話

13.  俺はベッドの上に座って、ぼんやりしていた。シャワーの音がしている。バスルームにいるのは西内。そしてここは、ラブホテルの一室だった。 ――なんで俺来ちゃったんだよ……  さっきまで居酒屋の個室の座敷で、西内と二人で飲んでいたのに、気が付いたらラブホテルの一室にいた。 ――なんとかドアとかで来ちゃったのか?!  いやいや、そんな事はない。俺は自分の足で歩いてここまで来たのだ。西内に「ラブホ行こう?」って甘く囁かれて、嫌だと断れなかった。  頭の中では、行ったらダメだ、と厳しく言う自分がいた。あの日の光景が蘇る。ひな壇の上の西内と奥さん。可愛い人だった。俺も可愛らしく生まれていたら、あいつと並んであんな風に大勢の人に祝って貰えたんだろうか、なんて考えていた。  俺がのこのこと着いてきたせいで、あの可愛らしい奥さんを泣かせることになる。分かっていた。分かっていたけど、気が付いたらここにいたんだ。  なんだかくらくらする。一気に酔いが回ってきたんだろうか。  シャワーの水音は続いていた。  もう何時間もこうやって、ベッドの上に座っているような気がしていたが、ほんの2、3分のことだったんだろうと思う。 ――やっぱりダメだ。こんなことして、みんな不幸になるだけだ。  俺はふらつく体を何とかしゃんとして立たせると、鞄と土産の入った紙袋を持ってホテルの部屋を出た。  ホテルの外に出ると、街の喧騒が目を覚ましてくれる。 ――シャワー出たら俺がいなくなっててビックリするだろうな……  俺は何だか愉快な気分になってきた。 ――そうだ、携帯……  ジャケットのポケットから携帯電話を取り出すと、西内の番号を着信拒否に設定しておく。これであいつから掛かってきたとしても安心だ。 ――いい加減分かれよ。  もう俺たちの道は別れてしまったのだということに。  あいつが彼女を選んだ時に、とっくに全部終わってたんだ。俺もいい加減、諦めが悪過ぎた。突然あいつの声を携帯で聞いたせいで、気の迷いが生まれてた。  今度こそ、すっぱりと西内を思い切れたような気がした。俺は足取りも軽く、街の中の人混みの中をすり抜けて行った。

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