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第14話

14.  アパートの部屋に戻り、スーツを脱いだら、いっぺんに気が抜けてしまったような気がした。今までどうしてあんなに西内にこだわっていたのかと、何だか馬鹿らしくも感じてきた。 ――良い思い出にしましょう、で終わらせておけば良かったのに、あいつも馬鹿だよな。  思い出の中のあいつは、いつもすごく格好良かった。男前だし、優しくて、付き合ってる間は最高の相手でいてくれた。そんな、いい思い出だけ残してくれれば良かったのに。最後の最後に、笑えないジョークで会場をしらけさせて退場したコメディアンみたいだった。 ――まあ、俺は笑わせて貰ったけどね。  シャワーを終えて、出て来たら部屋はもぬけの殻。きっとビックリしただろうな。慌てて掛けた携帯も繋がらなくて、あいつどうしただろう? 想像しただけで、おかしくて堪らない。  ベッドの上に寝転がっていたら、ドアをノックする音が聞こえた。 ――まさか、西内……?  俺はぎょっとして身を起こす。  返答が遅れたからか、もう一度ノックの音。しばらくしてから「菊池、いる?」と緒崎の声がした。俺はホッとして、ベッドから立ち上がり、ドアを開けた。 「ごめん、こんな時間に……」  緒崎は申し訳なさそうな表情で立っていた。 「どうしたんだ?」 「あのさ、今日夕飯ちょっと多めに作り過ぎちゃって、さっき一緒に食べるかなと思って呼びに来たんだけど、まだ帰宅前だったみたいで……」 「今日はちょっと飲んで来たんだ」 「そうだったんだ。……じゃ、もう夕飯済ませてた?」 「うん」 「そしたら、これ朝飯にでもして」  緒崎はおかずが入った容器を差し出した。 「ありがとう。……なんか、小腹が空いてきたから今から食べるよ」 「無理するなよ?」 「無理なんかしてないって」  俺は容器を受け取りながら、作り笑いをした。緒崎の優しさが胸に沁みて痛かった。やっと西内を忘れられそうだ、と思えたのも緒崎がいてくれたからだ。だけど、この想いは誰にも伝えられないし、知られてもいけない。緒崎は良い友達だからだ。 「……なあ、菊池」 「なに?」  緒崎はちょっと迷った後、口を開いた。 「ちょっと付き合えよ」 「え?」 「ほら、来いって」 「あっ、ちょっと待てってば……」  緒崎は俺の腕を掴むと、強引に引っ張った。その顔はすごく真剣で、俺は何が起こったのか分からなかった。

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