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第15話

15.  緒崎に引っ張られるようにして、俺は彼の部屋に連れて行かれてた。俺が呆然として座り込んでいると、緒崎は冷蔵庫から缶ビールを2缶取り出して、そのうちの1缶を手渡してくれた。 「ほら、飲めよ」 「ど、どうしたんだよ、急に……」 「何か嫌なことあったんだろ?」 「……」  どうして分かったんだろう? と緒崎の顔をじっと見つめる。 「何で分かったんだ? って思ったんだろ? そんなのすぐに分かるよ、おまえの顔見たら」 「そんなひどい顔してた……?」 「めちゃくちゃひどい顔してた」 「あ……あはは」  俺は情けなくて缶ビールを握りしめたまま、気の抜けた笑い声を上げていた。 「言いたくないなら言わなくていいけど、もし話して気持ちが楽になるんだったら聞くよ?」  緒崎は優しい。俺は彼の優しさに寄りかかってもいいんだろうか? だけど、その優しさは俺だけに向けられたものじゃない。それを間違っちゃいけないんだ。  数日前、この部屋に可愛い女の子が入って行ったのを思い出していた。楽しそうに笑い合う声が漏れ聞こえてきて、俺は耳を塞いでやり過ごした。俺以外の人間と緒崎が楽しそうに笑って話しているのが許せなかった。そんなのは俺の勝手な感情で、緒崎に彼女がいたって、不思議じゃないってちゃんと分かっていた。でも、嫉妬を感じずにはいられなかったんだ。 「菊池、話した方が楽になることもあるよ?」 「……そうだな」  何も洗いざらい全部正直に話さなくてもいいんだ、と俺は気付いた。付き合ってた相手が男だって言わなければいいだけなんだ。その部分を隠して、緒崎に聞いて貰えばいいんじゃないか。 「今日さ……前に付き合ってた相手と会ってたんだ」 「やり直そうとか言われた?」 「いや、そうじゃないんだけど」 「それってもしかして、この間行ってた結婚式の人?」  どうして分かったんだろう? 俺は驚いて緒崎を見た。緒崎は苦笑しながら口を開いた。 「部屋の入り口にさ、すっごいベタな土産物の袋置いてただろ? ハワイの」 「……あ、それで」 「あれ、新婚旅行の土産だったんじゃないの?」 「そう……」 「その付き合ってた相手が忘れられないとか?」 「いや……もうとっくに諦めてたんだ。それなのに、あいつ……ホテルに誘いやがって……」  話してるうちに、段々腹が立ってきた。あいつは俺が簡単にホテルに着いてくると思って、それで誘ってきたんだ。そんな安い男に見られてたのか、と思うとむかついてしょうがなかった。もし、一度でも俺が応じていたら、セフレにでもするつもりだったのかもしれない。 「ホテルに誘うとかずいぶん大胆なことするね? 新婚だろ?」  緒崎は驚いたように言ってきた。そりゃそうだろう……俺だって驚いた。 「相手が実家に帰ってるって言ってた。……暇つぶしに誘われたんだよ」 「ひどいな……」  緒崎はそう言うと、ビールをぐいっと飲んだ。そして、一呼吸置くと、何かを決心したような真面目な顔になって口を開いた。 「おまえホテルに着いて行って、やっちゃったの?」 「まさか! するわけないだろ? ……俺、捨てられたのにさ。それなのに、そこまでしてたら惨め過ぎるだろ……?」  俺は言いながら、本当に惨めだな、って思っていた。好きだった男にふられて、捨てられて、そいつの結婚式のスピーチまでさせられて。そうかと思えば、嫁さん不在だからって、呼び出されてセフレ扱い。ここまでされるって、俺、前世で余程悪い事でもしたんだろうか? 「菊池……」  ふと気付くと、目の前に緒崎がいた。俺は黙って考え込んでいたから、突然緒崎が視界いっぱいに入り込んできて驚いてしまった。 「なっ、なに? どうしたの?」  緒崎は何も言わずに俺をしっかりと抱き締めた。 「へ? あ、あのっ、なに……?」  俺は一体何がどうしてこうなったのかが分からず、一人でパニクっていた。

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