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第3話
3.
俺は黙々と焼き鳥を食い、そしてビールを呷っていた。隣でイケメン野郎が何か一人で喋っていたが、半分以上聞き流した。別に聞いたところで、俺に何か関係があるとは思ってなかったからだ。さすがにそんな俺の態度をどうかと思ったらしく、田崎は溜息をついてからこう言った。
「せっかく飲みに来てるんだから、もうちょっと楽しそうにしろよ」
俺はこの言葉にカチンときた。
「はああ?! なに言ってんの? 無理矢理誘ってきたのはおまえだろ? 何で楽しそうにしなくちゃいけないわけ?」
「無理矢理? そうだった?」
――こいつ……いい加減にしろよ?!
「……そうだろ? トイレで無理矢理誘ったんじゃないか」
「ああ、そうだった。思い出したよ、桜庭くんを誘った理由」
田崎はニヤリとまた悪役みたいな顔をした。
「……今日この後、桜庭くんの家に行ってもいい?」
「な、何言ってるんだよ。何でおまえが俺の家に来るんだよ?」
「……そろそろ終電なくなるし」
「嘘つけ、まだ終電まで2時間以上あるぞ?」
「あれ? 俺の時計、勝手に進んじゃってたのかな?」
「とぼけるなよ。……って、おまえすっげぇ高そうな時計してんな」
「まあね。ほら、俺ってば営業成績社内で一番だから。これくらいしてないと、箔が付かないっていうの?」
「さり気なく自慢してんじゃねえよ」
本当に何なんだ、こいつは一体。俺は2杯目のジョッキを空けた。
まあ、確かにヤツが言う通り、焼き鳥は美味かった。それは認めてやる。だけど、何か企んでるみたいなあいつの顔が気に入らない。いや、絶対なんか企んでる。それは間違いなかった。
「……桜庭くんの家、行ってもいいよね?」
「行ってもいいよね? じゃねえよ、来るな」
「断っていいの? 宮本くんの話……」
宮本の名前を出されて、酔いが一気に醒めた。
そうだった、こいつは宮本と俺の関係を知ってるって言いやがったんだ……さすがに、社内にばらされたらまずい。俺は……多分、いや間違いなく、会社にはいられなくなるだろう。
もう一人の当事者である宮本はとっくに会社を辞めてるだけに、被害が及ぶのは俺だけだ。それを見越してこいつは俺を脅してるのに違いなかった。
――くっそ……
「分かったよ……」
「嬉しいな。桜庭くんのお宅訪問出来るなんて」
田崎は俺をじっと見ると、嬉しそうに言った。
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