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第4話

4.  だからって、なんでこういう事になってるんだ?  俺は酔いと怒りと戸惑いと、何だかよく分からない感情に支配されたまま、どうしていいのか分からなかった。  田崎と焼き鳥屋を出た後、俺たちは電車に乗って、それで俺のマンションまで来た。鍵を開けて、玄関に入った途端、あいつはいきなり俺を押し倒してきた。必死に抵抗する俺を床に押しつけて、キスしてきたんだ。 「やっ……止めろってば!」  俺は唇を離すと、あいつから必死に顔を背けて抵抗した。田崎はそんな俺の言うことなんて、全然聞かずに、どんどんコトを先に進めようとしている。俺のシャツはスラックスから引き出されて、いつの間にかベルトも外されていた。 「おまえ……まさか、このために俺の家に来たいって言ってたのか?!」 「……当たり前だろ?」  田崎は顔を上げると冷静に言った。その落ち着きぶりが気持ち悪い。やっぱり悪い事企んでたんじゃないか! 「な……なんで?」 「おまえ、男が好きなんだろ?」 「おっ、男が好きだからって、誰とでもヤルわけじゃねえよ!」 「……じゃあ、俺としようよ?」 「ばっ、馬鹿じゃねえの? ここまでしておいて、今更なに相手の許可得ようとしてんだよ。どけ! 俺はおまえとはしねえよ!」  俺は何とかあいつの下から這い出す。田崎は残念そうな顔で溜息をついた。 「俺って桜庭くんのタイプじゃなかった?」 「……おまえは全然俺のタイプじゃない」  俺は急いでシャツのボタンを留めて、スラックスのジッパーを上げ、ベルトも締め直す。 「宮本くんも結構イケメンだったよね。社内で女の子たちに人気あっただろう?」 「やめろよ……あいつの話は聞きたくない」 「そっか、桜庭くんは振られちゃったんだもんね」  俺は悔しくて唇を噛んで俯いた。なんでこいつにこんな事言われなくちゃならないんだ。 「……桜庭くん、宮本くんとのこと、内緒にして欲しい?」  あいつは俺に顔を近づけて、まるで獲物をいたぶるみたいに楽しそうに言った。  そうか……俺、脅されてたんだっけ。 「……言わないで欲しい」 「それって、桜庭くんから俺へのお願いってことでいいのかな?」 「……そうだよ」 「じゃあ、俺からのお願いも聞いてよ?」 「……お願いって何?」 「俺とセックスして?」 「な、なんで……?」 「……男と一回してみたかったんだよね」 「おまえ……何言ってるか分かってるのかよ?」 「どうして? したらいけない? 俺は桜庭くんのお願い聞いてあげたんだよ? そしたら、桜庭くんも俺のお願い聞いてくれないと平等じゃないよねえ?」  どうして恋人でもない上に、タイプでもない男とセックスしなくちゃいけないんだよ。俺は訳が分からなくて、泣きたくなっていた。しかも、宮本のせいで。俺はあいつに二股かけられた挙げ句、捨てられたんだぞ? それで、今度はそれをネタに脅されるとか最悪だろ? 俺が何をしたって言うんだよ。 「……おまえ、男と寝たことないんだろ? やり方分かるのかよ」 「まあ、なんとなく? ネットでちゃんと調べたから大丈夫」  そう言ってあいつは鞄からローションとコンドームを取り出した。 ――まじかよ……こいつ、変態じゃねえの!?

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