4 / 100

ネコと猫_4

「……疲れた。蓮沼もお疲れ」 「はい、ありがとうございます」 長時間歩き回り足は限界を訴え、愛想笑いを浮かべ過ぎた頬は攣りそうだ。 それに比べ、蓮沼は特段疲れた様子もない。 これが年の差ってやつか……。 時刻は昼休み。 うちの会社には社員食堂なんて大層なものは備え付けられていない。 「蓮沼、昼は?弁当か?」 「いえ、特に用意はありません」 「なら、外食いに行くか。とっておきの喫茶店紹介してやる」 はい、と微笑む顔はやっぱり愛想笑いなんだと思う。 妙に張り付けたような出来すぎた笑顔だ。 まあ、今日会ったばかりなんだし心を開けと言うのも無理な話だよな。 仕方ないかと思い直して、蓮沼を連れ立って会社を出る。 無言もあれだろうと道中他愛ない会話を交わす。 「蓮沼、好きな食べ物とかあるか?」 「特にないです。先輩は?」 「俺は……肉かな」 それとなく返したら蓮沼はクスクスと笑った。 「なんだよ?」 「いえ、何だか似合う答えだなと思いまして」 コイツ……今絶対馬鹿にしたな。 でもさっきの愛想笑いよりはマシか。 「あんまり馬鹿にしたら厳しく教育すっぞ」 「うーん、それは少々困ります」 と言いつつもその顔はまだ笑っていた。 なんだ、結構笑えんじゃねーか。 普通にしてっと大人びてるから年下って感じしねーけど、こうやって笑ってると年相応だな。 「あ、ちょっと待ってくれるか?」 店手前の路地裏入り口で俺は立ち止まる。 「なんですか?」 「ちょっとここに用事」 と路地裏を指せば、蓮沼を眉間にシワを寄せた。 「こんなところに用なんて……もしかして僕からお金巻き上げようとしてます?」 「だーれがするか、馬鹿。生憎様独身貴族なんでね、金には困ってねーよ」 もう一度ばーか、と口にして俺は路地裏へと足を進めていく。 何だかんだで大人しく後ろについてくる蓮沼を、少し可愛いと思ってしまった。

ともだちにシェアしよう!