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ネコと猫_7

「勿体ないですね。先輩、モテそうなのに」 なんて、イケメンに言われてもただの嫌みだ。 「あれだな、いい人止まりってやつだ。そう言うお前はどうなんだ?」 「僕ですか?僕は全然ダメです」 謙遜する後輩に心の内で嘘をつけ、と突っ込んでやった。 「先輩に気遣ってんのか?」 「いいえ、本当なんですよ。僕、好きな子苛めちゃうタイプで……。大体嫌われちゃうんですよ」 こんな柔らかな顔してドSとは……。 しかしドSでもイケメンなら許されると言う法則は成り立たないらしい。 「先輩はどんな人がタイプなんですか?」 「どんなって言われてもな……。まあ、可愛い感じかな」 男の、だけどな。 嘘は言っていない。 目の前のイケメン男よりは、もっと小さくて可愛い男が好きだ。 「へぇ……可愛い、ですか」 含みのある笑い方に、何だかスッキリしない。 「何だよ?何かあるのか?」 「いいえ、何でもありません。あ、ちなみに僕は気の強い方がタイプです」 なんて訊いてもいない情報が追加された。 何なんだ、コイツ。いちいち癪に障る態度だな。 「はいはい、そうかよ」 「そうです、覚えておいてください」 「なんで俺が……そんなの全然興味な――」 言い掛けたところで目の前に湯気立った珈琲とナポリタンが運ばれてきた。 「お待たせしました」 テーブルの上に並べ終えたマスターは自分の口元で人差し指を立て、俺に向けて片目を瞑る。 「店内ではお静かにね」 ヒートアップしそうな雰囲気を悟ったらしい。 「どうもすみません」 なんて愛想笑いの後輩の足を、テーブルの下で思いっきり蹴ってやったが、その表情を崩すことは出来なかった。 マスターが立ち去ってから後輩は顔を歪ませ、俺を見る。 「何するんですか、痛いです」 「お前がイラつかせるのが悪い」 「横暴だなぁ」 まだ会って数時間の関係だが、あまり相性が良くないみたいだ。 落ち着け、落ち着くんだ。 こんなガキにペース乱されてどうする。 「まあ……なんだ、それ旨いから食ってみろよ」 ケチャップのいい香りが鼻を擽る。 「はい、いただきます」 品のある動作だ。 フォークを使う仕草までも様になるのか。 そのまま口元に運ばれていくフォーク。 一口食べれば蓮沼は綻んだ表情を見せた。 「旨いだろ?」 「はい、これは本当に美味しい」 俺が作ったわけではないが、喜ばれるのは素直に嬉しい。 「しっかり食っとけよ。午後からは仕事の説明だからな」 「お手柔らかにお願いしますね、先輩」 「残念だったな、俺が教育係になったからには厳しく指導してやる」

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