27 / 100

感度が良いのも問題ですね_9

周りにバレないかと怯えながら歩くこと数分。 蓮沼はある店へと入った。 そして手渡されたものに俺は混乱気味である。 「フィッティングルームはあっちだそうですよ」 「…………なんで浴衣?」 「だってさっきマスターが言っていたじゃないですか。お祭りに二人で来るようにって。お祭りと言えば浴衣です」 「いやいや、どうして俺がお前なんかと……」 「お仕置きですから。先輩の嫌がることじゃないと意味ないでしょう?それとも往来で犯された方が良かったですか?」 涼しげな顔していちいち言うことがエグい。 「ああ、下着は別のところで買ってあげますから、とりあえずはノーパンで」 「はあぁぁぁ!?」 「……うるさいですよ。そんなに大きな声出さないで下さい」 「だっ……おまっ…!」 「何ですか?買うと言っているんですから良いでしょう?それともずっとノーパンで歩きたいんですか?」 偉そうな後輩にわなわなと拳を握る。 「そ、そんぐらい自分で買うわ!」 「あ、そこなんですね。まあ、いいや。ほら早く着替えてください」 しっしっとフィッティングルームへ追いやられ、仕方なく浴衣へ袖を通す。 着なれないそれに苦戦して、何とか形に。 ………肩凝りそ。 「せんぱーい、着れましたか?」 「あ、ああ……」 慌てて着ていたスーツを畳み、外へ出ると、これまた同じように浴衣に袖を通した後輩が俺を出迎えた。 「何だ、似合っていますね」 とにっこり微笑む様は、きっと店内中の女性の視線を集めていることだろう。 コイツ……本当、顔はいいよな………顔だけ。 「先輩?聞いてますか?」 ずいっと視界いっぱいに広がる蓮沼の顔。 「――うあっ!?」 不覚にも間抜けな声を出して、思わず後退した。 「な、ななななんだよ!いきなり近付くな!」 「いきなりじゃないですよ。ずっと話し掛けているのに上の空だったんじゃないですか。話、聞いていましたか?」 「え……あ、悪い……聞いてなかった……」 「人の話はちゃんと聞きましょうね。下着、買いにいきましょう」 お前が言うかっ!という突っ込みを入れる前に紙袋が手渡された。 スーツを入れろと言うことだろう。 「あ、ありがとう……」 「いいえ」 少しの微笑みのあと、蓮沼は店の外へと向かう。 「あ、待てよ!これ金払わなきゃ――」 「――もう払いました。ほら行きますよ」 ………何の少女漫画だよ。それともB級ドラマか? どっちにしろ男にやることじゃねぇな……。 あまりにも強引な背中にもはや突っ込む気にもなれなかった。

ともだちにシェアしよう!