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感度が良いのも問題ですね_12

少し歩くと懐かしいものに心惹かれた。 「――蓮沼!」 「何ですか?」 浴衣の袖口を引っ張って足を止めさせたら、驚いたように目を開いて蓮沼は振り向く。 「あれ」 「……射的?やりたいんですか?」 「祭りと言えば射的だろ?」 「……そうなんですか?」 「え、何お前……やったことないの?」 「無いわけでは無いですが……」 蓮沼にしては珍しく煮え切らない言い方だ。 「何だよ?」 「いえ……先輩がやりたいならどうぞ」 蓮沼の足取りは渋々と言った様子で射的の屋台に近付く。 「いらっしゃい!一回五百円ね!」 威勢のいい店番のおっちゃんに五百円玉を手渡し、五発の弾を受け取る。 「うーん、どれにすっかな……」 「あの猫の小さなストラップとかどうですか?先輩、猫好きでしょう?」 ……まあ確かに猫は好きだ。猫はな。 けどコイツが“猫”って言うと違う意味に聞こえる……。 「何ですか?」 恐らく確信犯なのだろう。 隣の蓮沼はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、俺を見下ろしていた。 「……お前がやれ」 何だか急にやる気を削がれ射的の銃を蓮沼へと押し付ける。 「――え……!?いえ、僕は……」 と珍しく動揺を示した後輩。 「何だよ?」 「いえ、こういうのはあまり経験が無くてですね……」 「はっ、どうせお前のことだ。そんなこと言っても何だかんだ上手い事こなすんだろ」 悔しいことにコイツは何をやらせても要領がいい。 経験がないから自信がないと言っても、やり始めたらあっさりと出来てしまうタイプの人間だ。本当腹立つ。 「いいからやれよ」 「はぁ…………わかりました」 やたらと重たい溜め息の後、弾を詰め、的を狙う。その隣で俺も的の方へと視線を投げる。 「先輩、先に謝っておきます」 「?」 「お金、無駄にしてしまってすみません」 「………え?」 的に向けていた視線を隣へ移した瞬間、蓮沼は引き金を引いた。

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