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感度が良いのも問題ですね_19
歳を重ねると自分の意に反して体力が落ちていくものだ。
そんなに走ったつもりはないのに、もう息が上がっている。
一度足を止めて膝に手を付き、乱れた呼吸を整えた。
先程よりもいくらか冷静になった頭で、事の一連が脳内再生されるわけで……。
「…………やっちまった」
いい歳こいて何やってんだ、俺は。
あんな、あんなガキみたいな……。
「ああああああああ、くそ!」
大声を出したら隣を歩いていたカップルに怪訝な視線を送られた。
居たたまれなくなり、出店が並ぶ場所から少し外れ腰を下ろす。
「…………大人げなかったな」
さすがに。
自分自身に呆れた溜め息が出る。
百歩譲って祥葉はいい。
もしかしたらもう二度と会うこともないかもしれない。
だがあの後輩は……アイツとは嫌でも会社で顔を会わせてしまう……。
「……あー、明日からどんな顔してればいいんだよ」
堪らず頭を抱えた刹那。
「――いつも通りでいいんじゃないですか?」
頭上から降ってきた声に、勢いよく顔を上げる。
ムカつくほど綺麗な顔が、これまたムカつくぐらい綺麗に笑って俺を見下ろしていた。
「やっと見つけた」
「なっ……おまっ……」
無茶苦茶に走ったつもりだし、あれからそんなに時間も経っていないはずだ。
ただでさえ祭りの人でごった返しているのだから、そうそう見つからないと思っていたのに。
俺が言葉を詰まらせている隙に蓮沼は隣へ腰を下ろした。
「全く……急に走り出すんですから。僕が言ったこと忘れたんですか?言っておきますがお仕置き確定ですからね」
なんて涼しい顔して俺を見る。
ふざけんな、と言い掛けてやめた。
涼しげな顔の割りに首から汗が滴っているのが見えたからだ。
……走って、探してたのか……?
「先輩?水原先輩?聞いてますか?」
「え、ああ、悪かった……」
「素直に謝るということは、聞いてませんでしたね?」
「いや聞いてた……お仕置き、だろ……」
呟いた俺に蓮沼は怪訝な顔を向ける。
「兄さんに、何を言われたんです?」
「…………別に」
「別にって顔じゃないですよ。それに、何か言われたからあんなに怒っていたのでしょう?」
確信をついてくる蓮沼はその視線を逸らすことなく、真っ直ぐに向けてくる。
若いってある意味怖いな……。
堪らず目を逸らしたら、ぐいっと顎を取られ、鋭い視線に晒される。
「逃がしません。さあ、答えてください」
「……るせーな。別に何でもねーよ。ただ……」
「ただ?」
「あの兄貴がお前と二人で過ごしたそうだったから気遣ってやったんだよ。なのに、なんでお前は俺を追い掛けてくるんだ」
視線を逸らせないのなら仕方ないとその目を睨む。
「そんな事当然でしょう?」
「は?」
「好きな人が怒って走り去っていたんです。そのままに出来るわけないでしょう。僕が先輩を追い掛けるのは当然だと言ったんです」
……何でだ?コイツはただの後輩で、
「……お前、本気で俺のこと好きなのか?」
ただの変態野郎なのに……。
「そうだと言っているでしょう。またその身体に教え込まれたいんですか?」
どうして、心臓が鳴るんだ……?
「い、いい!いらない!」
「まあまあ、遠慮なさらずに」
ぐぐっと迫り来る蓮沼の顔を力一杯引き剥がす。
いや、やっぱり何かの間違いだ。
こんな奴に胸なんて高鳴って堪るか!
あれだ、顔だ。無駄に綺麗な顔してるってだけの話だっ!
じゃなきゃ、こんな……こんな……。
「あれ?先輩、顔赤いですよ?」
「う、うるさい!」
こんな年下の生意気な後輩に、絆されるなんて有り得ない!
「強気な顔も可愛いですが、そうして照れている顔も可愛らしいんですね」
「なっ……ば、馬鹿にすんな!」
「ふふ、してませんよ。元気になられたようで何よりです。お腹空きませんか?焼きそば、食べましょう」
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