39 / 100

感度が良いのも問題ですね_21

ああ、ほらな。 やっぱりロクなこと考えてなかった。 「……覚えてろよ」 「ええ、もちろん素敵な思い出として覚えておきますよ。お腹空きました、早く食べたいです」 あーん、と口を広げて待つ後輩。 鼻の穴にでも割り箸を突き刺してやろうか……? 「あ、変なことしたら今すぐここで犯しますからね」 「……チッ」 変なとこ察しがいいよな。 「先輩、早く早く」 「…………………………」 口を開いて餌を待つ犬を横目に、割り箸を手にする。 一口分を掬い上げ、それを蓮沼の口許へ運ぶ。 パクリと食らいついてくる仕草は本当に犬みたいだ。 「……旨いかよ?」 「ええ、とても。格別に感じます」 「……大袈裟なやつ」 「本当ですよ。ああ、何なら先輩には僕が食べさせてあげましょうか?」 「結構だっ!」 先手を取られて堪るかと焼きそばを口へ運ぶ。 香ばしいソースと紅生姜の香りが広がり頬が緩む。 「旨いな」 「先輩、もう一口」 「わーったよ、袖引っ張んな!」 あーんと、待ち構えている口にもう一度箸を運ぶ。 何か餌付けみたいで結構クセになるかも。 「今、餌付けみたいで楽しいとか思いました?」 コイツはエスパーなのか……? 「……やめろ、勝手に心を読むな」 「だって先輩分かりやすいんですよ。顔に出てます」 そんなに顔に出てるか?と自分の頬に触れる。 そしたらまた蓮沼はクスクスと笑った。 「ですから、そう言うのが分かりやすいと言うんですよ」 「……馬鹿にしやがって」 「と言うよりはとても愛しく思えて笑ってるんです」 「嬉しくないわ、あほ」 それは残念です、と全く残念がってない顔での謝罪。 一向に笑い止む気配もないので口に焼きそばを突っ込んでやった。 「――んぐっ……何するんですか」 「笑いすぎだ。黙って食ってろ」 はい、と素直に返ってきた声はやたらと明るかった。 「食べたら今度こそ綿菓子買いに行きましょう」 「……別にそんなに拘んなくていーよ。こんなおっさんが綿菓子食っても変な目で見られるし」 「ダメです。僕が見たいんです」 本当、よくわかんねー奴。 「……フランクフルト」 「はい?」 「……フランクフルトも食べたい」 「……ふっ、了解です」 まあ、せっかく来たんだ……楽しまなきゃ損だよな。 言い訳がましいことを思いつつ、蓮沼が楽しそうに微笑んだことに心が踊った。 そんなこと、絶対、知られるわけにはいかねーけど。

ともだちにシェアしよう!