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感度が良いのも問題ですね_22

焼きそばを食べ終えて歩き始め、綿菓子やフランクフルト、俺のリクエストを何でも蓮沼は聞いた。 一つだけ気に食わないのは全て後輩の奢りだと言うことだ。 俺が払おうとすると“僕に払わせてくれないと今すぐここでお仕置きです”なんて脅してきやがるから質が悪い。 「そーいや、祥葉はどうしたんだ?」 「ああ、そう言えばどうしたんでしょうね?」 「は?」 「先輩を探すのに夢中になっていたら、いつの間にか居なくなっていました」 「……いいのか、それで」 「別に大丈夫ですよ。子供じゃあるまいし。それに兄さんが居たらせっかくのデートが台無しです」 憤慨したあと、蓮沼は思い出したように声を上げた。 「それから、気に食わないのでそれやめてください」 「それ?」 「名前」 「?」 「どうして僕のことは名前で呼ばないのに、兄さんを名前で呼ぶんですか」 詰め寄る顔は拗ねたような表情を見せていた。 「ぷっ、はははははは何だそれ。子供かよ」 「別に良いでしょう。気に食わないものは気に食わないんです」 口を尖らせてそっぽを向く。 まさに子供そのものだ。 ああ、なんか、可愛いな。 「――祥元、こっち向けよ。名前ぐらいいくらでも呼んでやるって」 パッと明るい顔をしてこちらを振り向いた祥元だったが、またふと険しい顔に戻る。 「今度は何だよ?」 「そこはもっと恥ずかしがるべきでは?名前呼びと言うのはとても特別な感じがしませんか?」 「……お前、結構面倒くせーな」 「いえ、単純に先輩の恥じらう顔が見たいだけです」 ここまではっきり言われたら、いっそ清々しいぜ。 「悪趣味な変態だな」 「ふふ、よく言われます」 そんな開き直った後輩に呆れて溜め息をつけば、同時にドンッと体に響くような音がこだました。 すっかりと日の暮れた空に鮮やかな花が咲く。 「……花火」 「ええ、綺麗ですね」 その音を皮切りに次々と上がっていく花火。 こんな風にゆっくりと花火を見上げるなんて、いつ以来だろう……。 「……たまには悪くないな」 「――先輩、ありがとうございます」 「……?」 「好きな人と一緒に花火が見れて幸せです」 ……ホストかコイツは!!! 「ああ、そうだ。花火を見終わったら先輩の家にお邪魔させていただきますね」 「……は?はぁぁぁぁ!?」 「だってお仕置きが残ってますから」 「絶っっっ対嫌だね!」 「それじゃあこのまま外か……僕の家でも構いませんが、兄さんが帰っていると思うので公開プレイになりますがよろしいですか?」 僕はどちらでも構いません、と脅しを掛けるように迫ってくる。 「ねぇ、どうされるのがお好みですか?ちなみに僕は有言実行派の人間ですので」 残念ながらこの短い付き合いの仲でも、それは嫌と言うほど知っている。 「ひ、卑怯だぞ!」 「何とでも言ってください。選ぶのは先輩です」 よく言うぜ……こんなの初めから選択肢がないのと同じじゃないか。 「どうしますか?」 「………くそ、分かったよ」 「良い判断ですね」 きっと全ては意地悪く笑うコイツの掌で転がされているんだ。

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