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釣った魚に餌はやらない_1

昼休み、会議室にて。 憤慨する俺と顎に手を当てながら何やら考え事をする蓮沼。 「……つまり僕が先輩のことを会社の人間に話す気は見られないので、今の関係を止めたい、と?」 「そうだ」 俺が告げた内容をご丁寧に復唱した後輩は、俺の足の先から頭のてっぺんまで舐めるように視姦してくる。 な、何て目で見てくるんだよ……鳥肌立った……。 「そ、そう言う訳だからもうお前の我儘に振り回されたりはしない。俺は先輩、お前は後輩、それだけだ」 指を突き立てた先の顔は目を細め、やがて口角を上げた。 さあ、どう出てくる……? 「……うん、まあ良いでしょう。分かりました、今までのことはお互いなかったことに。これからは同じ仕事仲間としてよろしくお願いします」 あの作られたような笑みを浮かべ、蓮沼は会議室から出ていった。 俺はと言えば呆気なく受け入れられたことに、ただ呆然と会議室のドアを見つめた。 拍子抜けとはまさにこの事。 もっと抵抗されると思ったのに。 アイツのことだからまたセクハラ紛いのことをしてきて、うやむやに流してくると思った。 決してそうして欲しかったとかではない。 だがしかし、だ。 仮にも好きだ何だと騒いでいた相手だぞ? もっとこう……何かあってもいいだろう!? 食い下がる姿勢だけでも見せて良かったんじゃないのか? 「………はっ、何だそれ。結局、全部アイツの手の中で遊ばれていただけって事かよ」 そう、好きだなんてただの冗談。 「これで元通りだ。元の平穏な生活だ」 静かな会議室には俺の声だけが響いて返ってくる。 待ち望んでいた平穏な生活。 ここはもっと喜ぶべき所なのに……。 「くそっ……どうしてこんなに苛つくんだ……!」 俺の心はまだ乱されたままだ。

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