51 / 100
釣った魚に餌はやらない_1
昼休み、会議室にて。
憤慨する俺と顎に手を当てながら何やら考え事をする蓮沼。
「……つまり僕が先輩のことを会社の人間に話す気は見られないので、今の関係を止めたい、と?」
「そうだ」
俺が告げた内容をご丁寧に復唱した後輩は、俺の足の先から頭のてっぺんまで舐めるように視姦してくる。
な、何て目で見てくるんだよ……鳥肌立った……。
「そ、そう言う訳だからもうお前の我儘に振り回されたりはしない。俺は先輩、お前は後輩、それだけだ」
指を突き立てた先の顔は目を細め、やがて口角を上げた。
さあ、どう出てくる……?
「……うん、まあ良いでしょう。分かりました、今までのことはお互いなかったことに。これからは同じ仕事仲間としてよろしくお願いします」
あの作られたような笑みを浮かべ、蓮沼は会議室から出ていった。
俺はと言えば呆気なく受け入れられたことに、ただ呆然と会議室のドアを見つめた。
拍子抜けとはまさにこの事。
もっと抵抗されると思ったのに。
アイツのことだからまたセクハラ紛いのことをしてきて、うやむやに流してくると思った。
決してそうして欲しかったとかではない。
だがしかし、だ。
仮にも好きだ何だと騒いでいた相手だぞ?
もっとこう……何かあってもいいだろう!?
食い下がる姿勢だけでも見せて良かったんじゃないのか?
「………はっ、何だそれ。結局、全部アイツの手の中で遊ばれていただけって事かよ」
そう、好きだなんてただの冗談。
「これで元通りだ。元の平穏な生活だ」
静かな会議室には俺の声だけが響いて返ってくる。
待ち望んでいた平穏な生活。
ここはもっと喜ぶべき所なのに……。
「くそっ……どうしてこんなに苛つくんだ……!」
俺の心はまだ乱されたままだ。
ともだちにシェアしよう!