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釣った魚に餌はやらない_3
オフィスビルのエントランスを抜けようとした所で、後ろから声を掛けられた。
その声に振り向けば宮下 恭一が俺の方へと足を向けていた。
「あ、部長……お疲れ様です」
「うん、お疲れ様。今から帰りかい?」
「ええ」
流れるように並んで歩き出した俺達はエントランスを抜ける。
「今日は優秀な彼は一緒じゃないのかい?」
優秀な彼、とは訊かずとも蓮沼のことだろう。
「ええ、まあ。そんな毎日一緒って訳じゃないですよ」
「そうなのかい?よく一緒に居るのを見かけていた気がしたんだが……」
「たまたまですよ、きっと」
あまり深く詮索されないよう素っ気なく返す。
「……そうか。それじゃあ思い違いだったのかもしれないな」
それを悟ってかは分からないが部長は笑って流した。
「そうだ。今夜はどうかな?」
隣に視線をやると覗き込むような瞳が近くにあった。
「ディナー。以前誘ったときは断られてしまったからね。今日はどうだろう?」
少し思案した。
正直気分は乗らないが仮にも部長と言う立場の人間の誘いをそうそう断ってもいられない。
蓮沼にはもう付き合ってやる必要もないしな。
「ええ、いいですよ。ぜひご一緒させてください」
「良かった、嬉しいな。何か食べたい物はあるかい?」
「いえ、特には……部長にお任せします」
部長は前に向き直り、考えるように顎に手を当てる。
「そうだね、それじゃあ良く行くお店でもいいかな?」
「はい、楽しみです。部長、グルメだって有名ですから」
「そうなのかい?」
「女子社員が噂してましたよ」
これは嘘ではない。
この若さで部長と言うポジションにつき、性格は穏やか、ルックスだって悪くない。
女子社員が放ってはおかないのは当然だ。
まあ、蓮沼の人気っぷりも劣ってはいないが。
「怖いなぁ。きっと裏で悪く言われてるんだろうな」
「そんな事ないですよ。黄色い声ばかりです」
「はは、だといいな」
全く厭らしさを感じない返し方。
きっとこれがこの人の人気を確実なものにしてるんだろうな。
なんてぼんやりと考えた。
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