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釣った魚に餌はやらない_9

身体を押され無理矢理動かされる足。 踏ん張ったって何の意味もなさない。 くそ……もう恥も承知で助け求めるしか……。 「――部下へのセクハラは立派な犯罪ですよ、部長」 とても聞き覚えのある声音、だけど今は天の声にも思えた。 「失礼だな、介抱のつもりなんだけどね」 ふっと軽くなった身体で後ろを振り向けば、予想通りの顔が目に映る。 「蓮沼……」 「どうも、先程振りですね」 いつぞや聞いた台詞だなと妙に冷静な頭が記憶を辿る。 何処にでも現れるな……こいつ本当に俺のストーカーなんじゃないだろうな? 「介抱にしては些か強引にも見えますが?」 「そうかな?まあ、いずれにしろ君には関係の無いことだけどね」 二人の言い合いの最中、部長から距離を置こうとそっと足を引いたが見事に失敗に終わり、肩を再び抱き寄せられる。 「わっ、ちょ……」 「ほら、大人しくしてね」 だーれが大人しくなんてするかと、力一杯引き離すがすぐに戻される距離。 ハァ……とわざとらしく聞こえてきた溜め息に、後輩を睨み付ける。 「呆れますね、自分の限界も分からないなんて」 「だ、誰のせいだと……!」 「え?」 「ぇ……あ……いや……」 酒が回ってるとだめだ。余計なことを口走る……。 「……まあ、いいです。それは後でゆっくり訊くとして、部長の手をわざわざ煩わせる必要はありません。先輩の介抱は僕が引き受けます。さあ、先輩こちらへ」 と差し出される手。 ……何でコイツ、こんなに偉そうなんだ。 部長と蓮沼……どっちかと言えばまだ蓮沼の方がマシか……。 と伸ばし掛けた手を部長の手が掴み引き戻す。 「良いのかな?会社の人間には隠してるんだよね、君のその性癖」 面白いぐらいの既視感に肩を落とすしかない。 「人の弱味につけ込むなんて大人げないですよ、部長」 なんて口出す蓮沼をキッと睨み付ける。 お、お前が言うな!お前が! 「つけ込んでる訳じゃない。公平な取引だよ」 「ものは言いようですが……そこまで落ちぶれちゃいないと僕は思っていますよ。ね、部長?」 見える……見えない火花が散って見える……。

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