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釣った魚に餌はやらない_11

床に座り込んでいた俺に近付くと、膝を折って視線を合わせてくる。 「気分はどうですか?吐き気は?」 馬鹿にされると思っていたのに蓮沼から出てきた言葉は俺を心配するものだった。 「………先輩?気持ち悪いですか?何ならトイレまで運びますけど」 「え、いや……大丈夫………」 「ならいいですけど。そんなところに座ってないで中に入ってください」 腕を持ち上げられると身体が簡単に立ち上がる。 俺だってそこそこガタイはいい方だ。 それをこうも簡単に持ち上げるんだから、見た目の割に力がある。 ベッドに座るよう指示されて大人しく腰を下ろすと、蓮沼はまた溜め息をついた。 「酒が回ると随分素直なんですね。本当に危なっかしい人だ」 「え?」 「何でもありません。水です、どうぞ」 封の空いていないペットボトルに入ったミネラルウォーターを差し出され、それを受け取って一気に煽る。 思っていたよりも喉が渇いていたらしく、中身が半分ほど減った。 「……少しは自覚してくださいね」 徐に呟かれた台詞に俺は首を傾げた。 「何が?」 「先輩が如何に魅力があるかってことです。ああ、もちろんネコとしてですけどね」 また始まったか変態発言。 ミネラルウォーターの蓋をしてベッドへと放り投げ、自らもベッドへと身を沈める。 「馬鹿馬鹿しい。部長のは冗談だ。本気にするなよ」 ふかふかのベッドは優しく俺の身体を包む。 その心地よさに睡魔が襲ってくるのは致し方あるまい。 「そう言えば飲み過ぎたのは僕のせいとか言ってましたね?どういう意味ですか?」 軋むベッドの音と共に揺れる身体。 あー……だめだ……眠い…………。 更に頬を滑る温もりに瞼は持ち上がらない。 「ねえ先輩、教えて?」 コイツの声って落ち着くんだよな……。 「どうして僕のせいで飲みすぎたんですか?」 「うー……ん……お前が……」 「僕が?」 「いちいち、頭に……浮かんで、くる……んだよ……」 頬の温もりが優しく何度も撫でてくるから、心地よさに身を預ける。 「どうして?どうしてそんなに僕のこと考えるんですか?」 「……んなの……ムカつくから……だ…………」 正直俺は半分夢の世界にいて、自分の声さえ遠くに聴こえた。 だから楽しそうに笑う声もすごく遠くて、 「そういうところ凄く好きです。ねえ、分かってますか?僕は――」 最後まで聞かずして俺は意識を手放してしまった。

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