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釣った魚に餌はやらない_12
微睡みから目を覚ますと息苦しかった。
目を開けたはずなのに真っ暗で何も見えない。
「……ん…………?」
目の前には壁があって、頭を包み込まれている感覚がする。
数秒停止していた思考は徐々に覚醒していき、自分の身体が抱き込まれながら横たわってることに気付いた。
「うわっ!?なっ…………!」
慌てて体を起こし腕の中から抜け出そうとしたが、力強くて腕が外れない。
「ふぁ〜……なんですか、もう。まだ夜中ですよ?」
「は?いや、違っ……何でお前と寝てんだよ!」
「何でって……先輩が僕のベッド占領するからですよ。迷惑被ったのはこっちですからね」
眠そうに欠伸をしながら、俺の身体を抱え直そうとする。
「わっ、ちょっ、待てって。分かった、俺が悪かった。帰るから離せ!抱きつくな!」
「悪いと思っているなら朝まで大人しく抱き枕になっててください」
引き離そうと胸板を押し返すが、抱え込んでくる力の方が若干強い。
半分寝惚けてるくせに力強すぎだろ!
「は〜な〜せ〜っ!」
「はぁ……うるさいですよ、全く」
「お前が離せば大人しくしてや――んっ!?」
視界いっぱいに広がるのは眉間にシワを寄せた蓮沼の顔で、俺の言葉はソイツの口に無情にも飲み込まれていった。
「んー、んっ、んーー!」
負けて堪るかと胸板を殴った拳は簡単に拘束されてベッドへと押し付けられる。
「先輩、チョロすぎません?」
口を離した後輩は、さも心配しているといった面持ちで俺を見下ろした。
「お前が!馬鹿みたいに!力強いんだよ!」
「週二ジム通いの成果ですかね?先輩も今度ご一緒にどうです?」
「お断りだ!」
「残念です。それじゃあ先輩には、この先も僕に組み敷かれる未来しかありませんね」
蓮沼は寝起きがいいらしい。
見上げた顔は憎らしいぐらい清々しく口角をあげていた。
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