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釣った魚に餌はやらない_14

「ふぅ……んっ……はっ……ハァ………ハァ……」 満足そうに唇が離れる頃、俺は肩で息をしていた。 「そんな厭らしい顔しないでください。興奮して暴走してしまいそうになる」 そんなギラつかせた目でよく言う。 「も、いいだろ……離せよ……」 「うーん、まだだめです。もう少し触らせてください」 「は?ふざけんな、離せよ!」 「だって久し振りじゃないですか、こんなに触れるの。もう少し触らせて」 変に距離を取ったのはコイツのくせに……。 「……んだよ、それ」 「?」 「勝手なこと言うなよ。お前が変に距離取ったんだろ!」 「………先輩が止めたいって言ったからですよ」 「あそこまであっさりしなくても良いだろ!」 「はぁ?」 好きだの何だの散々人を馬鹿にして……。 「仮にも、仮にもなぁ!好きだとか言うんだったら、もっと渋れよ!少し言われたぐらいで簡単に引き下がんなよ!」 俺はもうそんなに若くないから、相手に振り回されるなんてのはごめんなんだよ! 「……渋ってほしかったんですか、僕に?」 「……食い下がるぐらい……しても良かっただろ……」 「先輩………」 蓮沼は目を丸くして数回瞬くと、次の瞬間には声を出して笑っていた。 「な、なんだよ!」 「ふ、はははっ……だってそれもう……」 「だからなんだよ!」 「いいえ、つまり先輩は僕に構ってもらえなくて寂しかったんですね?」 「違っ、そう言うことじゃない!俺はお前の態度が気に食わないって言って――」 ふと軽くなった両手を見ると、拘束されていたはずが自由を手にしてる。 「意地っ張りな所も可愛いですが、ご自分の気持ちには素直になった方がいいと思いますよ。何たってもうすぐ三十路ですもんね」 「うるせーな……ほっとけ」 「僕、今から先輩のこと抱こうと思います」 「……は?」 唐突に真っ向からぶつけられた言葉は俺の眉間にシワを寄せた。 「今から抱きます」 「はい?何言ってんだ?ふざけ――」 「抱きますよ、本気です。逃げていただいても構いません」 「…………………」 「その代わり今ここで逃げるなら、本当にもう“職場の先輩”として接します。意味、分かりますよね?」 「………意味、わかんねー」 「嘘つきですね。まあ、どちらでもいいですよ。逃げなきゃ抱くだけです」 蓮沼の手が服の隙間から挿し入れられ、腹筋をなぞる。 「……お前は本当に俺が好きなのか?」 「好きですよ。性的な意味で。グズグズに愛してあげたいくらいに」 「そ、そこまでは聞いてない!と言うか何で俺なんだ……こんな、お前から見たらおっさんもいいところだろ。特に好かれる理由もない。一緒にいる期間だってまだ短い」 「………深い理由が必要ですか?理由がなきゃダメですか?」 シーツの擦れる音がして、蓮沼は顔を俺の肩口に埋めた。

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