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波乱万丈なんて望んでない_1

「え?社員旅行ですか?」 「……そうだ」 俺が手渡した旅のしおりをパラパラと捲りながら真剣に見つめている蓮沼。 それは先日から女性社員たちが意気込んで作っていた手作りのしおりだ。 毎年行われる恒例行事だが、今年は特別気合いの入ったしおりだった。 ……それもこれもこの後輩のせいだな、きっと。 「別に強制参加って訳じゃない。俺だって一年目に行ったっきりだしな」 「へえ……それじゃあ今年も不参加なんですか?」 しおりから顔を上げ、蓮沼は俺に目を向ける。 「あー……今年はお前次第だな。一応教育係だから、お前が行くなら俺は強制参加」 って昨日狸じじいに念を押されたんだよな、全く抜け目のない。 「つまり僕が参加=先輩も参加ってことですね?」 「まあ、そうだな……」 蓮沼は口元を歪める。 あ……この笑い方、ろくなこと考えてねーな。 「悩むまでもありません。参加します。先輩との旅行のチャンス逃すわけにはいきません」 「……あくまで社員旅行だからな。変なこと考えんなよ?」 「嫌だなぁ、変なことって何です?」 「…………お前のその笑顔は信用ならん」 目を細めて冷たい視線を送ってやれば、蓮沼からは苦笑が返ってくるだけ。 「酷いな、そんなに信用ないんですか?」 「ないな。皆無に等しい」 「それはなかなか手厳しい。まあ、そのぐらい警戒心持たれた方が僕としては楽しいですけどね。それに……」 一度言葉を切って俺の耳元へと口を寄せると、声をひそめた。 「無防備で居られるよりは僕の理性的にも有難いですからね」 「――ばっ……!」 「くれぐれも気を付けてくださいね。隙あらばすぐに食べてしまうかも」 囁く声が背中に走らせたのはゾクゾクと這い上がる何か。 ……何か?いや、苛立ちだろ。 手にしていた自分の分のしおりを馬鹿げた発言をする後輩の顔面に叩きつけてやる。 「だーれが食われるか、ばーか」 「痛いですよ、少しは手加減してください」 「ふん、まだ足りねぇぐらいだっての」 社員旅行……頼むから何も起きてくれるなよ、と俺にはただただ祈るしかなかった。

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