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波乱万丈なんて望んでない_5

お土産のまんじゅうを買って湖へと向かう。 道中、数人の女性に声を掛けられた。 俗に言う逆ナンってやつで、目的は間違いなく蓮沼だ。声を掛けてくる女も女だが、いちいち受け答えをする蓮沼も蓮沼だ。 馬鹿みたいな作り笑いを浮かべ、丁寧に断りをいれる様を横目で見ていた。 俺からすれば馬鹿みたいな作り笑いでも効果覿面らしく断られたと言うのに、女たちは嫌な顔ひとつしない。 ああほら、また一組……嬉しそうな顔して去っていく。 「よくやるな」 「好意を無下には出来ませんから」 「思いっきり作り笑いのくせして良く言うぜ」 「それでも喜んでもらえるんですから、良いじゃないですか。先輩は仏頂面すぎますよ。ほら眉間のシワが更に怖い印象を与えていますし」 眉間をグリグリと押してきた指先を払い除けて、更にシワを深くする。 「元々の顔だ。ほっとけ」 「そうですか?でも僕に触られて気持ち良さそうにしているときは、眉尻下げてとても可愛らし――」 「――わああああ!馬鹿!やめろ!」 「あ、湖見えてきましたよ」 人の話を聞かない背中はすたすたと前を歩き、掴み掛かろうとしていた手は行き場を失う。 「ほら、早く行きましょう」 少しだけ振り返った顔が、柔らかな風と共に笑みを溢した。 ……さっきとは全然違う笑い方。 「……………その顔は、嫌いじゃねーんだよな」 「何です?」 「何でもねーよ」 「僕も嫌いじゃないですよ。先輩のツンデレなところ」 「おい、聞こえてんじゃねーか」 「さあ、どうでしょうね?」 隣に並び直したら手の甲が触れた。 「手、繋ぎたいって言ったら怒ります?」 「当たり前だろ。こんな大の男二人が手なんて繋いでたら笑いもんだ」 「残念です。僕は気にしないのに」 と言いつつ手は繋がれることはない。 「まあ、僕ら二人だけの秘密をわざわざ教えてやる必要もないですね」 冗談めかして言うが、きっとコイツは分かっている。 俺が周りの目を気にしてしまうことを。

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