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波乱万丈なんて望んでない_6

「…………なあ、これ浮いてないか?」 「浮いてますよ。ボートですから」 「いや、そうじゃなくて」 湖に浮かぶ複数のボートには、若い男女のカップルだらけ。そんな中、男二人でボートに乗る俺達は完全に浮いていた。 いや、そもそも何が悲しくてコイツと二人でボートなんか……。 湖に着くや否や有無を言わさず俺の腕を取り、あっという間に受付を済ませると、気付けば乗り込んだボートは湖のど真ん中へと移動していた。 あまりに流れるような動きに口を挟む間なんてなかった。 「水の音、綺麗ですね」 「……悲しいぐらいにな」 「また眉間にシワ寄ってますよ」 何がそんなに楽しいんだってぐらい優しい笑みで俺を見てくるから、居たたまれず視線を逸らした。 「……お前は俺なんかとこんなことして楽しいのか?」 「当たり前じゃないですか。至福の時間です。あ、そうだ」 言葉と共に差し出された蓮沼の手に俺は首を傾げるしかない。 「何だよ?」 「手、繋がせてください。」 「……は?」 「下の方で繋げばボートに隠れて見えませんよ。さっきは繋げなかったので、少しぐらい良いでしょう?せっかくのデートなんですから」 また始まった……コイツのどこから突っ込んでいいか分からん発言。 「これは社員旅行であってデートじゃない!」 「僕にとっては紛れもなくデートです。だから手ぐらい繋ぎたい」 「お断りだ!」 「……今日は三人部屋でしたね。今ここで手を繋ぐのと寝込み襲われるのどちらがいいですか?」 「なっ……」 ん?と差し出された手は自信ありげに開かれている。 「公開プレイがお好みの変態さんですか?」 「んなわけあるか!」 俺の頭は残念ながら単純で蓮沼の安い挑発にまんまと乗せられ、張り倒す勢いで手を重ねた。 「ふふ、捕まえた」 「…………くそ」 馬鹿だ……馬鹿すぎる。 結局また、コイツのペースじゃないか……。

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