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波乱万丈なんて望んでない_7
危ないからとボートの上では本当に手を繋いだだけで、それ以上蓮沼が悪さをすることはなかった。
ただ愛しそうに優しく触れられて擽ったかった。
ボートが乗り場に戻る頃にはその手も解かれて、宿までの道はただ隣に並んで何気ない会話を交わすだけ。
「そういや宴会は覚悟しておけよ。毎年新人は何かしらやらされる」
「そうなんですか?怖いな」
「俺の時は当時流行ってた芸人の物真似やらされたよ」
今思えば笑い話だが、当時は何で俺がと憤慨したっけな。
「へえ、それは見たかったですね」
「残念だったな、俺より遅く生まれて」
「そうですね。僕、人生で悔やんだことってあまりないんですが、こればっかりは悔やまれますよ。僕の方が年上だったら良かったのにって」
何だそれ、と笑ってやったが蓮沼は笑ったりなどせず真剣な眼差しで前を向いていた。
「…………何でだ?」
返す言葉に悩んだ末、ありきたりなやり取りしか出てこなかった。
「年の差ってどんなに努力したって埋められないんですよ。時間だけは努力じゃどうにもならない」
「……………………」
「悔しいです。どうしても貴方に追い付けないことが」
そんな事を考えていたなんて、全く想像もしなかった。
だってコイツは要領がいいから大抵のことは先回りしてて、仕事だって新人とは思えないぐらいこなして、余裕のある変態で……いつも俺のことを見下しているのだとばかり思ってた。
「ふっ、はは、はははは」
「何笑ってるんですか?」
「いや案外可愛いこと考えてんだな、お前。あー、なんか初めてちゃんと年下に見えたわ」
「年下が嫌だって言っているのに意地悪な人だな、先輩は」
もういいです、と先を歩き出してしまった蓮沼を追い掛けて、背中へと声を掛ける。
「蓮沼」
「何ですか?」
振り向いてはくれないが無視まではしない。
「お前が年上だったら俺が困る」
「………どうして?」
興味を持ったのか前を向いたままだった視線が俺の方へと流れてくる。
そんな視線を受けて俺は隣へと並んだ。
「お前が年上だったら、俺はこうして隣に並べない」
「……そんなことないでしょう」
「あるんだよ。どうせ俺のことなんて見向きもしないで先を歩くに決まってる」
「そんなことありませんよ」
「どうだかな」
「ふ、はは、本当に信用ないなぁ。……先輩、慰めるの上手ですね。意外だな」
「これでも年上だからな」
すっかり機嫌の直った後輩は、そうですかと嬉しそうに笑った。
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