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波乱万丈なんて望んでない_8

夜の宴会は無礼講も無礼講。 先輩も後輩も、上司も部下もなくありったけの酒を流し込んでいく。 そんなどんちゃん騒ぎの中、静かに隣でグラスを傾けた後輩を横目で睨む。 「気に食わないな」 「何がです?」 「俺の時は訳の分からない物真似で笑い者にされたのに、どうしてお前は一曲歌って終わりなんだ?」 「どうしてって言われましても……女性社員の皆さんからのリクエストですから」 このあからさまな待遇の違い。 腹立たしくもなる。 「良いじゃないですか。僕、あまり歌は得意じゃないんですよ」 「嘘つけ。そこそこ上手かったろうが」 「本当そこそこなんですって」 生意気な奴めと小突いてやろうとしたところで、狸じじいが蓮沼を呼んだ。 「ちょっと行ってきますね」 「おー、おー。行ってこい。新人らしく酌回りでもしてこい」 シッシッと振り払う仕草を見せて、肩を竦めた背中を見送る。 ありゃ潰されんな、ザマーミロ。 内心嘲笑いながら少なくなっていたビールを一気に煽った。 そこからは少し酒を控えて、約三時間にも及ぶ宴会は幕を閉じた。 なぜ酒を控えたかって? そりゃもちろんすっかりと酔い潰れた同室者二名を部屋へ運ぶためだ。 案の定潰された蓮沼と潰しておきながら本人も潰れた狸じじいを両肩に引き摺って部屋まで移動する。 他の奴らはと言えば二次会だと盛り上がって、放置ときたもんだ。 全く冷たい奴らだな……。 いくらなんでも成人男性二人を運ぶのは骨が折れる。 読んで字のごとく本当に引き摺っている状態だ。 特に蓮沼は俺より背が高い分、余計に。 「……先輩、もっと優しく」 辛うじて意識を取り戻した蓮沼が力なく呟く。 「捨てていかないだけ有り難く思え」 愛がない、何て言う酔っ払いのぼやきは無視に限る。

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