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波乱万丈なんて望んでない_12

触れ合わせた指先は熱いぐらいで、やっぱりアルコール入ってんじゃねーかと内心突っ込んでやった。 「ふふ、可愛い。ねえ、一緒に入りましょう?このまま引きずり込んで濡れた浴衣を満喫するのも悪くないですが、さすがにそれは出来ませんからね。ご自分で脱いで入ってきてください」 指先を絡ませ遊ぶように動く手とからかうように笑う表情。 「早く、僕逆上せちゃいます」 「………………」 いっそ逆上せて倒れてしまえと思う心と、素直に言葉に従い浴衣に手を掛ける身体。 何やってんだ、俺は……。 「“何やってんだ、俺は”ですか?」 「やめろ、エスパー。人の心を勝手に読むな」 「何度も言いましたが、先輩顔に書いてあるんですよ」 ……騙されないぞ。 こいつは絶対エスパーだ。 生まれてこのかた顔に出やすいだなんて言われてこなかった。 帯を解いて肩まで浴衣をずらした所で視姦する蓮沼に気付き、手を止める。 「……見んなよ」 「今更恥ずかしがってるんですか?」 「るせーよ、あっち向いてろ」 「はいはい」 首だけを反対側へ回した蓮沼を確認して、浴衣と下着を脱ぐと静かに湯船へと足を入れた。 ちょうどいい湯加減だ。 体を沈めていくと水面は波打ち、湯船からは湯が流れ出る。 「……入ったぞ」 「隣」 ……注文の多い奴だな。 まあ、ここまで来たら大差ないか。 一度静まった水音を鳴らし、隣へと腰を下ろした。 素直に言葉に従ってしまうのは、温泉の気持ち良さに警戒心が緩んでいるせいだ。 「気持ちいいですね」 「まあ……」 「本当はね、この露天風呂で犯してやろうと思ってたんです」 「おい……」 「ふふ、でも止めました」 「…………何で?」 傾げた蓮沼の頭が肩口に乗る。 「さっきのキスが思った以上に嬉しかったから、ですかね……?」

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