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第3話

 彼がこの趣味に出会ったのは、数年前――18歳の時まで遡る。  幼い頃から、光希に友人ができたことなどなかった。  それでも、幼稚園に入ったばかりの頃などは、彼なりに頑張っていたのだ。  クラスメイト全員に話しかけ、おはようの挨拶をした。その結果、「光希くんの顔が怖い」と、クラスメイトの半数に泣かれてしまった。  中学生にもなると、もはや光希と目を合わせようとしなかった。  稀に、偶然に、ほぼ奇跡的に目が合ったとしても、相手は「睨まれた」と委縮するだけだ。  それどころか、思春期の鬱憤が溜まっていたのか、「王子様全とした名前と顔が似合ってない」というあまりにも不躾な囁き声を聞いたことまである。  結果、光希にとっての趣味といえば、一人でできる類のものに限られてしまった。  読書。映画。勉学。  その中でもとりわけ、読書はよかった。  本の世界では、自分は不愛想で三白眼で目が合うだけで眉を顰められている高野光希ではない。  最強の勇者になり、誰もひれ伏す魔王になれた。  特に当時流行っていた数々のライトノベルは良かった。  そのどれもが、現実世界で疎まれ続けた主人公が、異世界で救世主に生まれ変わるというストーリーだ。  大まかなあらすじは同じだが、作品によって、異世界は中世だったり近未来だったりしていた。  現実逃避と言われても構わない。とにかく、その頃から、光希は自分ではない何者かになりたかった。  もっと言えば、現実世界の自分が置かれている境遇を忘れ、心を別の場所へと「飛ばしたかった」。

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