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第4話
そして大学時代。18歳という大人の階段を上ったところで、思わぬ転機が訪れる。
喧噪に包まれる大学の学食の隅で、なんとも下世話な声が聞こえた。
「あのAV、最高だったよな」
「わかる! 没入感がマジぱねぇの! ぶっ飛ぶかと思ったわ」
「マジ、猿みたいに腰振りまくったよなー」
いつもの光希であれば、下品な話に気分を悪くし、すぐさまその場を立ち去っただろう。
けれどその日に限っては、彼らの中の一人が言っていた言葉が忘れられなかった。
――ぶっと飛ぶかと思った。
それは、今の自分を取り巻く境遇も悩みも嫌な感情も、すべて忘れられるということだ。
光希は持っていた講義ノートの隅に、彼らが話していた断片的なタイトルをこっそりとメモをする。
そして講義が終わった後に真っ直ぐ向かったのが、個室でVRが楽しめるチェーン店。
学食で彼らが語っていた通り、初のAV体験(しかもVR)は素晴らしいものだった。
視界いっぱいの肌色と、リアルなバイノーラル音声。結果、光希は5分という早すぎるフィニッシュを迎えた。
後に残ったのは、いわゆる賢者タイム的な虚脱感と、なんかすごかったなという満足感。好きな本や映画をひとつ堪能した際の現実逃避にプラスして、身体的な快楽があった。
「ぶっ飛ぶ」って、こういうことだ。
頭の中がまだふわふわと浮いている。なのに脳の奥は痺れて何も考えられない。
その時の光希は、まさに別の世界にいた。もっと言えば、天国にいる心地だった。
自分が誰かなんて、何を悩んで将来どうなるかなんて何も考えない、ただの快楽がそこにはあった。
そして、快楽物質には依存性があるという。このたった一瞬、されど一瞬は、彼が快楽の虜になるには十分すぎる時間だった。
やがて、凝り性の彼は、様々なAV、大人の玩具を集め、より貪欲に快楽を貪れる方法をインターネットで調べ始めるようになる。
そして男性器をしごくどころか、最終的にはアナル開発にまで手を出した。
もともと友人のいない光希だ。ひとり遊びにふける時間は十分すぎるほどあった。
社会人になってからも、なんとか時間を捻出し、その一瞬を必死になり楽しんだ。それはもう、趣味と呼んで差し支えない領域にまで来ていた――はずだったのに。
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