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第5話

「ん、あ……っ」  先週末に取り寄せていたのは、新作のオナホ(年上のちょっとエッチなお姉さんをイメージしたハード仕様、らしい)と、後ろに挿れる用のディルド(振動機能付き)だ。  どちらも好きなブランドが自信を持ってオススメしている逸品で、自分も絶対気に入ると思った。だから、光希は使うのを楽しみにしていたのに。 「やっ……なんで……」  勃たない――わけではない。  それこそ、最初の内はあまりの快感で、勝手に腰が動くほどだった。  けれど途中から、「ぶっ飛ぶ」ことができなくなった。  身体は正直に反応しているのに、心が萎えていく。ディルドの振動を「強」に切り替えても気持ち良さは一瞬で、あの溶けてしまいそうな幸せな感覚が味わえない。  原因は明らかだった。  現実世界の疲労と徒労。特にここ最近は、最悪と悲観するほどでもないけれど、良いか悪いかで言えば確実に悪いことしかなかった。  「どうしてこんなこともできないんだ」と繰り返し怒鳴りつけてくる上司の声。  しかし、裏では彼が光希の企画を流用し、さらに上の人から高評価を得たらしいという話を風の噂で聞いたのが数週間前。  噂をしていた同僚の声からは、同情と憐憫に隠されて、嘲笑が混じっているように思えた。  アイツは出世レースから外れたんだよ。まだ一年目なのにな。ご苦労様でした。そんな声。  それも当然だ。彼は光希の友達でも何でもなく、ただ同じ年に入社したという共通点でしか繋がっていないのだから。  挙句の果てには、傘を持っていない時に雨に降られ、風邪気味だが治す暇もなく、ずっと身体が怠かった。  食欲もなく、せめてゼリーでもとコンビニに買いに行く。  すると店内にいた酔っぱらいに「何睨んでんだ」と絡まれた。  その場にいたアルバイトの子が仲裁してくれたのだが、彼は彼で「余計なことをしないでくれ」と言わんばかりの目で、呆れた顔で光希を見ていた。  目を瞑ると、今でも怒鳴り声や憐れむ顔が鮮明に頭の中に浮かんでくる。  よく親の顔を思い出すと勃起できないと聞くが、原理はそれと同じなのだろうか。  もっと強い刺激を与えないと。光希はオナホを動かす手のスピードを上げる。  きっと、もう少し、もう少しでイけるから――。  その時だった。心臓がどくんと大きく脈打つ。次いで、頭を殴られたような衝撃に襲われたと思ったら、ズキズキと突き刺すように、心臓と頭の痛みが増していく。  明らかに、いつもの「ぶっ飛ぶ」ような感覚とは違っていた。

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