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第7話
というのが、前世の自分、高野光希が体験してきたことだった。
そして、新しい世界に生まれ落ちてなお、彼には前世の記憶があった。
姿形だけ取っ帰られても、自我は続く。生まれ変わったという感覚はあまりなかった。
人間、一歩踏み出したとしてもそう大きくは変わらない。そして、それは世界も同じなのかもしれない。
まず、高野光希は高野光希のままだった。何がというと、名前が。
苗字の漢字もそのままだが、自分が混乱しない分、良かったのかもしれない。
そして、生まれた世界も、前世の彼が過ごしていた現代日本とよく似ていた。
パラレルワールドというのか、if世界というのか。科学技術の進歩や建物の外観、電車の外から見る風景は、光希が前世で生きていた世界と何ら変わりない。
いくつかの変化はもちろんあった。例えば地名。
歴史から由来された由緒正しい名前も、どうやって読むのだろうという難読駅もこの世界には存在しない。
全てが簡素になっており、県内の北からA地区からE地区までと、シンプルに割り当てられていた。これは逆に、分かりやすくなったとも言える。
何より土地における一番の変化は、国の政策によって、街が徹底的にゾーニングされていることだった。
住宅街がA地区、オフィス街がB地区、小学校から高校まで固まっているのがC地区で(ちなみに大学は県外にあり、そこがまた、大学だけで集まっている地区だった)、自然が豊富で、観光に特化されたD地区。
そして、愛とか性とか生々しい、色で例えるならピンクの欲望が渦巻く歓楽街が、E地区だった。
現世での光希はA地区の家族向けマンションに住んでいる。
休日には公園でピクニックをする家族やカップルが見られ、朝はパン屋から焼きたての香りが漂う。
治安も良く、質の良い暮らしを絵に描いたような街だった。
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