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第9話

 そして、生まれ変わったことで、高野光希には、生きる世界以上に大きな変化があった。  卒業式が近づいてきた二月下旬。窓から夕陽が差し込む廊下を歩いていると、うしろからバタバタと足音が近づいてくる。 「すみません、高野先輩! さきほど、1年の代表から預かってきたんですが……」 「ああ。卒業式用の紙花だね。1年生の子たちには、入り口に設置する分を任せてたはずだから……ふふっ、たくさん作ってくれてる。華やかな卒業式になるね。きっと、みんな喜ぶよ」 「きっと、みんな会長が好きだから気合い入ってるんですよ!」 「ありがとう。でも、僕はもう会長じゃないよ」 「ああっ、つい癖で……!」  光希が優しく微笑みかけると、後輩である彼はさっと頬を赤らめた。  そう。現世での高野光希は、ほぼ全ての人間から好かれ、慕われるようになっていた。  釣り上がった三白眼が、現世では大きく、ややタレ目がちで優しい印象与えるものになっていた。  櫛を通しても寝ぐせ直しをボトルごとぶっかけてもまっすぐになることのなかった髪が、今はサラサラだった。  色素が薄いことも、優しい印象を与えるのに役立ってくれている。  背も前世よりは高いが、威圧感を与えるほどじゃない。  外見が変わると性格の捉えられ方も変わった。「人見知り」は「繊細」に代わり、「凝り性」は「真面目」と言われるようになる。  あまりよろしくない運動神経と要領は、「ちょっぴり抜けてるところがあって可愛い」だ。 勉学も前世で積み上げてきたものがあるからか、成績は極めて優秀。  結果、周りからは慕われ、欠点をフォローしてもらえることも多くなり、最終的には進学校の生徒会長まで上り詰め、大学も推薦ですんなり決まった。  前世とは打って変わった、完全な勝ち組だ。今の高野光希は、「なんだかなぁ」の「な」の字もない、完璧な人生を生きている。 それこそ、「早くE地区にいけるようにならないかなぁ」とか、細々とした悩みはいくつかあるけれど。

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