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第10話
「会長……じゃなかった! 先輩はみんなの王子様ですもん。きっと、卒業式ではボタンを毟られまくりですよ! 第二ボタン以外にも奪いつくされますね」
「光栄だけど、第二ボタンって最近あんまり聞かないし、都市伝説みたいなものじゃない?」
「でも、女子が言ってましたよ。玄関から出てきたところを狙うんだって!」
「あ、あはは……」
そこまで行くと、もう新手のスナイパーとかアサシンの類じゃないだろうか。
なんとも言えない苦笑いを零していると、目の前からふわりと華やかな香りがした。顔を向けると、やっぱり、彼がこちらにやってくるところだった。
後輩の保阪が彼を見つけた途端、「やべ」という顔をして踵を返そうとしたけれど、もう遅い。
「西田先輩! 今までどこ行ってたんですか!」
「野暮用。っつうか、今の三年は自由登校だろうが」
「それでも! 会長……じゃなかった、高野先輩は毎日来てくれてますよ! 西田先輩も、元書記として次期生徒会の行方は気にならないんですか!」
「別に」
西田はキャンキャン吠える保阪を適度に交わす。向かう先は生徒会室で、おそらく私物でも取りに来たのだろう。
また上手く話せなかった。卒業まで、あと少ししかないのに。
すれ違うと、香りを少し強く感じた。スパイシーさの中に、ほんのりと甘みのあるラストノート。有名な香水で、男女どちらが使っていても違和感はないが、高校生が使うには早すぎる香り。大人びた西田には、とてもよく似合っているけれど。
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