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第11話

 同じ生徒会メンバーとして、光希と共に活動してきた西田透には、入学当初からずっと、ある噂があった。  彼は毎日のようにE地区に通っているのだと。相手も選り取り見取りで、毎晩夜遅くまで遊んでいるのか、授業にも遅刻してくることが多い。  噂の真偽は定かではない。とはいえ、素行不良は学校側も見逃せなかったらしく、高野が選挙で生徒会長に選ばれるのと同時に、教師から任命された特別枠で透は書記となった。  ろくに話をしたことなど、数えるほどしかない。その中で、彼の笑顔を見たことは、一度しかない。ただ会議で書記を頼む。提出書類を確認してくれと言われて、相槌を打つ。確認し、返す時に一言添えて、相手も相槌を打つ。光希と透の生徒会業務はその繰り返しだけだった。  たった一度、放課後に他愛もない話をした時のことを除いては。  前世の記憶も含めれば、光希にとっての透は決して相性が良いタイプとは言えない。普段から気怠そうにしていて、何を考えているのか分からない。高校生ながら、生徒どころか教師のお小言も飄々として交わしていくのが、怖いやら羨ましいやら、だ。  前の自分だったら、きっと近づきもしなかった。いや、今の自分であっても、話しかけはしなかった。けれど今は、そんな光希と彼を近づけてくれた教師に、少しは感謝しているのだ。 「……彼の方が毟られそうだよね、第二ボタン」 「そうですか? 西田のこと、女子は遠巻きに見てるだけですよ。ちょい悪だか何だか知りませんけど、先輩の爪の垢でも煎じて飲んで、もっと真面目になってほしかったです」  ほしかった、と過去形なのが、既に自分たちの生徒会が解散してしまった事実として、胸に切ない痛みを残す。 「でも、ほら、彼はかっこいいから」 「僕にとっては、先輩の方が数億倍かっこいいです!」  その後も、西田は生徒会の時にいかに不真面目だったかをぷりぷりと怒りながら語り、彼は自分の隣を歩く。 「……本当に、かっこいいんだよ」  校舎にあふれる生徒たちの喧噪で、すぐにかき消されてしまう声。でも、それこそが、光希の本音だった。

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