12 / 101
第12話
光希が透と交わした数える程度の会話のひとつ。そして、光希が唯一、透の笑顔を見られた時。それは、彼が生徒会長になってまだ少ししか経っていない頃だった。
春も中頃。桜の花は盛りを過ぎたが、それでもまだ薄桃色の花びらを散らしていた。空は驚くほど明るい青で、うららかな陽気が学校全体を包んでいる。新学期も始まったばかり。誰もが浮かれている日の放課後だった。
光希は生徒会長になったばかりということで、引き継ぎはしたものの、まだ慣れない仕事に追われていた。今まで上手くやってきた分、できて当然という空気もあった。
もし、ここで何か、どうしようもない失敗をしてしまったとしたら?
周囲は優しい人ばかりだった。クラスメイトも、先輩も、後輩も、教師も。目が合えば話しかけてくれるし、「最近どう?」なんて声をかけてくれたりもする。
それでも、不安は徹底的に拭えなかった。
もしも、自分が、彼らの笑顔を損なうことをしてしまったら。人は簡単に他人に牙を剥く。それこそ、こっちを見る眼差しが睨んでいるようで、気にいらなかったから、とか。
笑って許されるミスならまだ良い。かと言って、笑って許されないミスの線引きが上手くできない。
特に困ったのは、生徒会長として資料を作成する時だ。部活動の予算。参加する地域活動の選定。野外学習や修学旅行の行先をどのように決定するか。年度初めといっても、決めるべきことはたくさんある。
資料の作り方は分かる。レイアウトの組み方だって、毎年使っているテンプレートを、きちんと先輩から受け継いでいた。
でも、それでも、企画を作成する度に怒鳴られていた前世の記憶が、作業する光希の手を止めた。
生徒会長になるなんて、前世も含めて初めての経験で。しかも、みんなが信頼して選んでくれた分、期待も背負っているわけで。
要するに、光希は気を張りすぎていたのだろう。日々の学業に加え、まったく進まない作成物を相手にし、眠る時刻はどんどん遅くなっていった。
ともだちにシェアしよう!