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第13話
その日の生徒会には、誰もいなかった。部活と兼任しているメンバーも多い上に、全員そろっての会議が毎日あるわけでもない。生徒会室がしんと静まり返る日があってもおかしくなかった。
そんな日だったから、そして、暮れなずみゆく空と、窓から入ってくる柔らかい風と春の陽気。不規則にはらはらと散っていく桜を見つめ続けているうちに、瞼が重くなってきた。
うとうとと船をこいでは、はっと目を覚ます。けれど睡眠を欲している身体には勝てず、気づけば机に突っ伏し眠りこけてしまっていた。
ふわふわとして心地いい夢を見ていたように思う。そんな光希の背中に、あたたかい何かが優しく触れた。自分をいたわるように、そっと。
「……っ!」
「悪い。起こしたか」
光希の背中には、シックな色合いの、ふかふかのブランケットがかかっていた。
「これは、西田くんが……?」
「透でいい」
「……透が、かけてくれたの?」
尋ねると、彼はこくりと頷いた。
「珍しく寝てるからさ、疲れてるだろうと思ったんだ」
「そっか……ありがとう」
ブランケットは、きっと彼の私物なのだろう。大人っぽい香水がふわりと香ってくる。
西田透については、会議の時、黒板に板書する文字がやけにで、印象に残っていた。それでも、不良という話だったし、実際にいつも遅刻してくるので、彼と二人きりで、面と向かって話すのはこれが初めてだった。
「透は優しいね」
ふわふわした頭で、光希はつい思ったことをそのまま口に出してしまう。
しばらくの間、彼からの反応がなかったので、何か気に障ることを言ってしまったのかもしれない。
どうしようと心の中でうろたえていると、「……初めて言われた」と呆けたように呟いた。どうやら、何を言われたかをのみこむまでに時間がかかっていたらしい。
「そ、そうなの?」
「ああ。特に優しくしようとか思ったこともないしな」
彼はきっと自分のしたいようにしているだけなのだという。
「したいと思って他人に優しくできるのは、すごいと思う」
前世の高野光希も、そうすれば良かったのかもしれない。三白眼だろうと、目が合う度に疎まれようと、人のために何かをしようと動いていれば、何もない人生が少し色づいたのかもしれない。
他者からの噂に振り回されることなく、好きなように行動している透を見ながら、光希は前の人生に思いを馳せていた。
「俺は、光希の方が優しいと思うけど」
だから、目の前の透に、ぶっきらぼうにそう言われて、つい固まってしまった。
「そこで固まるのかよ。光希の方が言われ慣れてそうなのに」
「あ、いや、だって、それは……」
光希、なんて、家族以外で初めて呼ばれたからだ。でも、自分だって彼を下の名前で呼んでいるのだから、彼が自分を光希と呼んでも違和感はない……のか……? 西田透との距離の掴み方がわからない。
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